3 獣道の猛獣 4
聖なる力を内に持つ魔性の巨人が動き出す。
ここに三機目が。
——砦の指令室——
迎撃に出した全機体が倒され、残党達は最後の切り札をきる事にした。
リーダーの戦士——魔王軍に召喚された数多くの聖勇士の一人——が、操作盤を激しく叩く。
「へ、へへ……お前の出番が来たぜえ」
モニターには外が映っていた。
格納庫とは別のシャッターが開き、そこから巨大な生物が出てくる光景も。
地球の恐竜でいう大型の獣脚類——アロサウルスやティラノサウルス等——によく似た、身長二十メートルを超える巨竜。
だが聖輝が以前倒した個体とは違い、その体の各所は装甲で補強され、巨大な人工の鉤爪が腕に、熱線砲が背中についていた。
魔王軍で一部の研究者達が熱心に研究・開発していた兵器、改造怪獣……この竜はそのうちの一体なのである。
元の竜の戦闘力を数倍に高めたこれに、いくら操縦者の腕が立とうと量産型の青銅級機が勝てる筈が無いのだ。
青銅級機の出力ではこの竜の装甲は貫けずダメージにならない。竜の一撃は容易に青銅級機を破壊する。0対100の戦いに技量など影響はしない。
だからこの基地を襲撃した聖勇士は、この改造竜に絶対葬られるしかなかった。
だがしかし。
丘の別の場所が開いた。残党どもさえ知らないシャッターが。
そこから初めて姿を見せるケイオス・ウォリアーが出てくる。
琥珀色の鎧を纏った獣人型の機体。
頭はヒョウ。
左腕には巨大な鉤爪。
そして右腕の手甲はヘビの頭。
「なんだありゃあ! この基地から出たぞ?」
残党の一人が困惑している、その時——その機体の操縦席では、聖輝が眼をギラつかせ、己の機体に呼び掛けていた。
「初の獲物はあれだ。Aブルートセルポパルド」
異形の機体の右腕が、その蛇の頭が伸びた。外見からは考えられないほどに。それは改造竜にぐるぐると巻き付き、全身を縛りあげた。
竜が狂暴に吠え、巨体を捩る!
だが……ほどけない。千切れない。体格で上回り、人工的に強化もされた竜の力でもってしても。
それどころか、竜の背に搭載された砲塔が、締め上げられる力に耐えきれずひしゃげて折れた。
そして先端のヘビの頭が牙を剥き、竜の後頭部に嚙みついた!
悲鳴をあげる竜。
そこへ異形の機体は跳びかかった。
そのまま締め上げても勝てるかに見えるというのに。
巨大な鉤爪が突き刺され、拘束の隙間から心臓を貫く。
ヒョウの頭が鋭い牙で、竜の喉笛を噛み破った。
大音響とともに改造竜が倒れる。
何一つ抗えぬまま、哀れにも絶命……!
跳びかかったのは当然だった。
締め上げ続けるより遥かに早く、容易く仕留める事ができるとなれば。
司令室の残党達は静まり返った。切り札が一方的に屠られた、信じ難い光景に。
だが彼らはざわめいた。
異形の機体の右腕、ヘビの頭が丘に向けられたからだ。
ヘビの口中から大量の飛沫が飛んだ。それが丘に降り注ぎ——煙をあげて大地が溶解する! 当然、その下に隠された砦も……。
リーダーは通信機に怒鳴った。
「こ、降伏する! 獲った物は全部やるし、俺達はここから離れてもう戻らない!」
丘の外に、異形の機体に、確実に届いた筈だ。
だが、溶解液の雨は止まなかった。
天井が煙をあげて歪み、そして崩れる——!
土と鉄とコンクリートが悍ましく混ざった小山。煙をあげるかつての隠し砦の成れの果て。
それに背を向け、魔王軍の実験機は歩き出した。
操縦席でセイキが呟く。
「エルミオネ姫。俺が御救いいたします」
ギラつく眼は獣そのものだった。
「俺にはできる。俺にだけはできる。この、俺にだけ……!」
彼は戦いに向かう。他の五機を倒し、秘宝の欠片全てを手に入れるために。
秘宝を奪い合う者、三人目——最後の皇騎士・聖輝。