【9】楽しくも危うい街
アルマンの街の店はどれもとても面白かった。
さすがは商人の街ね、世界中から珍しい物が集まっていた。世界各地の民族布地を高々と積み上げていたり、見たことのない乾物ばかりが陳列されていたり、金槌やノミばかりを集めた専門店など多種多様だった。それを目当てに買いに来る者が大勢いて、どの店もかなり活気づいていたわ。
私は、ついつい店の商品の珍しさと、満月だから大丈夫という気の緩みもあって、周囲を警戒することも忘れて動き回っていた。
日が暮れ始めて、アクティスと約束したレストランへ向かう時も馬車を呼べば良かったのだ。それなのにそう遠くない距離だったから、商店ももっと見てみたかったし、歩いて行くことにしてしまったの。
街を歩く女性がぐっと少なくなっていたのに……
夜の帳が降りてくると、見通しも悪くなってくる。
だから、私は怪しい男たちに後をつけられていたことに、全く気が付いていなかったの。店主に道を尋ねている姿を見られていたのだ。
「ねえねえどこに行きたいんだって? 詳しく教えてよ。よかったらオレたちが案内してあげるからさあ?」
角を曲がったら目的のレストランというというところで、突然後ろから話しかけられて、私は驚いて振り返ったわ。
そこには、どう見ても案内してくれそうにない、二人のならず者が立っていた。
男たちは帯刀していた。‥‥‥あまり穏やかじゃないわよね?
トゥステリア王国では帯刀しているのは騎士や軍人位だけど、カルド国では一般人も帯刀していることが多かった。おそらくほとんどが保身目的だろうけど、……この男たちは違うわね。
私は、素早く男たちに魔力が備わっていないか、眼の奥にきゅっと力を入れるようにして、視たわ。
私は今、特急魔術者並みの魔術力があるから、そういうことも可能なの。
一人は魔力無し、もう一人は低級魔力保持者だった。
男たちを観察しながら、できるだけ刺激しない言葉を選んで返したわ。
「……もう道はわかっていますから、大丈夫ですわ」
「ですわ? お育ちがいいんだなぁ」
ガハハハ……と男たちは下卑た様子で笑い合う。
「この辺りは危ないぜ? 俺たちが連れて行ってやるよ」
絶対に連れて行ってくれないくせに。よく言うわよね?
魔法でこの男たちを吹き飛ばすなんてワケないけれど、まだ何もされていないし、人目もあった。この男たちにレストランまでついて来られては面倒だし、お店にも迷惑がかかってしまう。
どうしたらいいか迷って、とりあえずレストランを一旦通りすぎることにしたわ。
男たちはなんだかんだ私に話しかけてきたけど、私は無視して歩き続けた。
私は魔術を使うタイミングを図っていたの。
私に何かを仕掛けてきたら、魔術を使うのはその時よ!
正面から来た馬車が私たちの横をガラガラと通過する。
どう見ても私たちは異様な取り合わせだった。町娘一人に、後ろから怪しい男が二人。できれば馬車の乗員にこの異常さに気が付いてほしい!と願ったのだけど……。でも、無情にも馬車は通り過ぎて行った。
周囲に人は見当たらなくなっていた。
薄暗い細い道が横に伸びているところで、男の一人が急に私の右手を捻りあげ、そのまま横道へ押し込もうと行動を起こした。
触れられたらすぐに魔術を使おうと思っていた私だったけど、まさか捻りあげられると思っていなかったから、痛みに耐える方が先になってしまった。
男たちの行動に腹立った私は、彼等をキッと睨みつける。
何か言ってやりたかったけど、捻りあげられた痛みが強く、声が出なくって。
「なんだァ? 親切に人の申し出は聞くもんだろが?」
男たちにとってはいつものやり方なのだろう。私をじりじりと横道に押し込もうと距離を狭めて来る。しかも私の近くにいる男は短剣を抜いて、私に脅しをかけてきた。
なんて汚いやり口! 私、卑怯なのは大っ嫌い。
それに、私こう見えて、負けず嫌いなのよ。
……私は痛む右腕を左手で押さえながら、考えていた。
いつ呪文を唱えるか、その絶好のタイミングを。
横道に入って男たちの作戦が成功しかかったところで、呪文を唱えて、捻られた分も一気に仕返してあげるわよ!
――だけど、そうはならなかった。
「そこで、何してる!?」
険しく咎める若い男の声がして、男たちは剣を握って声の主を振り返った。
剣尖が聞こえたと思った次の瞬間、私は右腕を掴まれるとぐいっと引かれた。さっき捻られたところに飛び上がらんばかりの痛みが走って、あまりに痛くて自分の右腕に全神経が向かってしまう。
はっと気が付くと、私の目の前には男性の広い背中があった。
私は、剣を握った長身の若い男の後ろに庇われていたのだった。
次回【第10話】 助けてくれた騎士