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【最終話】エピローグ2 そして――

 アメリが病室のドアを開けると、怪我を(かば)いながらベッドを降りたアクティスが、窓を開けてフェリカたちの馬車を見送ろうとしていた。


「あれ、どうしたの、アメリちゃん?」


「殿下すみません、……あの、妹にサインもらっていいですかぁ?」


「勿論いいよ? 妹さんの名前は?」


「えっと、キャンディです」


 パンフレットにさらさらと緑のペンを走らせるアクティスをじっと見ていたアメリは、単刀直入に話しかけた。


「殿下って、フェリカ様のこと好きなんですよね?」


「……っ!!」


 驚いたアクティスは、落としそうになったペンをなんとか握り直し、爆弾発言のアメリに顔を向けた。

 そして役者とは思えない、精一杯に取り繕った笑顔を浮かべた。


「うーん……そ、それ、過去形にしてくれる?アメリちゃん。 僕、諦めようと努力しているところだからさ」


 金髪を何度も掻き上げて動揺を隠せないアクティスは、慣れているはずのサインをぎこちない手つきで書き終えると、アメリに手渡した。

 アクティスは、もの言いたげなアメリの視線を感じながら、ふうっと深いため息をもらす。


 開け放った窓の向こうでは、そよ風をはらんだ木々の芽が揺れている。

 それをなんとはなしに目に留めながら、アクティスは抱えていた想いを口にする。


「……本当はね、もう昔からわかってたんだ、いつもフェリカは、僕よりもっと遠くを見てるってこと」


 アクティスは、更に言葉を紡ぐ。


「……それに今のこの僕はね、フェリカのために爵位に戻ることも、この役者(しごと)を辞めることも決して無いって、自分でわかっているからさ。 ――だから、これでいいんだよ」


 窓の下を見やると、馬車に乗り込もうとするフェリカの姿があった。


「もう、卒業しないとな」


 吹き込む風が、芽吹く新緑の匂いを運んでくる。

 風が含む青い香り漂う中、アメリはアクティスの言葉を黙って受け止めていた。


 だがアクティスは、普段お喋りなアメリが黙り込んでいることが、逆に気になった。


「ねえアメリちゃん……? これって……勿論内緒にしててくれるよね?」


 アクティスが不安になってアメリを振り返ると、アメリは団栗眼を見張って元気に請け負った。


「殿下、わかってます! 私を信用してください!」


 アメリらしい勢い込んだ返事を聞いて、いっそう心配を募らせたアクティスは念を押した。


「絶対に、内緒だよ?」

 

 アクティスは苦笑しながら髪を何度も掻き上げていたが、その手をふと止めて、表情を引き締めた。


「……そうだ、ねえアメリちゃん。僕、君にもう一つ頼みがあるんだけどさ」


「はい? 殿下、なんなりと」


「フェリカのことだけどさ、君も良く知っての通り、他人のことには一生懸命で自分のことは後回し。だからさ――――」


()()()()()()()()()?」


 アクティスは、ゆっくりと。

 短い言葉に万感の願いを込めてアメリに託す。


 アメリは、その声の変化に気づいて、唇をキリッと結ぶとアクティスに視線を返した。

 そして、極上の笑顔で応える。


「はい、勿論です。 殿下、お任せください!」



 アメリはスカートをつまむと、フェリカに習った優雅なカーテシーで、アクティスに深々と礼をした。




 *





 ジオツキーの合図で馬車は滑らかに動き出し、アクティスの姿が見えなくなるまで手を振った私は、いつもの定位置にアメリが座るや否や、意気揚々と早口で話しかけた。

 そう、()()()()()()()()()()()、よ!


「さあ、アメリ! トゥステリア王国に、()()()()()戻るわよ!」


()()()()()って……? フェリカ様、どういうことですかぁ?」


「これから忙しくなるって意味よ!」


「……はあ?」


「まずね、トゥステリア城でお父様に、アクティスの歌劇公演を提案するわ。それからいくつかの歌劇場に掛け合うつもり。特に南歌劇場がいいんじゃないかって考えているのよ。あそこは伝統的な催しだけでなく、時代に合った作品も積極的に取り上げているでしょう?」


「ええっ!? フェリカ様が話を進めるんですかぁ?」


「マルコス支配人に事後処理が大変だからって頼まれたの。まあ最初のきっかけ作りだけよ。私が動いたほうが話が早いでしょ? それでそれが終わったらね、今度こそ大忙しになるんだから! トゥステリアにはしばらく帰れないわよ?」


「大忙しって、フェリカ様、なんのことですかぁ? しばらくお見合いもパーティの予定も……申し上げにくいですけどぉ、……無いですよ?」


「婚活よ婚活! 婚活に決まってるじゃないのよ!」


「もう、私の話聞いてます!? だからお見合いもパーティも……予定は無いんですよぉ? それにこの間のパーティだって、出会いは無かったって言ってたじゃないですかぁ?」


「ウフフ…、アメリ! この私があのチャンスが転がり放題の大婚活パーティから手ぶらで帰ってくるとでも思ってるの? ちゃあんと、お相手情報をゲットしてきたんだから!」


 そう、私はヤトキンにめぼしい殿方のことを聞いて、アクティスのカードにメモしてきたのだ。確か候補者は十人はいたわねえ。ウフフ。


 ああ、ワクワクするわあ! 今度こそ、私、婚活に集中できるのよお!!

 この方たちに順番にご連絡したら、きっと誰か一人位は良い方がいるに違いないわ?

 ああ、未来が見える! 

 ハッピーな私の未来よ! 

 今度こそ、つかむのよ! この手で、私の幸せを!!


「ほら、アメリ、このカードを見てよっ!!」


と私はポシェットの中に手を入れた。


 あら? 

 カードが……無いわ?

 ……あんなに沢山あったカード、どこ行ったのかしら!?


 私は慌ててアメリに訊いた。


「ねえアメリ、ここに入ってたカード、知らないっ?」


「知りませんよ。(かばん)の中は私はいじりませんし……あ、確か宿でジオツキーが推し色カードの説明をした時、フェリカ様も自分のポシェットから取り出してましたよ?」


 そうだったわ。カードのフチの仕様を私も確認したんだった。

 確認して、その後どうしたかしら?

 カードをポシェットに戻した記憶が……

 戻した記憶が、……無いっ!!


 私はざああっと青ざめた。


「ア、アメリッ、あの時カード、どうしたっけ!?」


「フェリカ様のはわかりませんけど、机にあったジオツキーのカードは全部、フェリカ様が浄化の炎で燃やしてくださいましたよぉ?」


「ええっ!?」


浄化の、魔術……! 

……燃やした……私が……?


「つ、机の上のカード全部? それ本当!?」 


 とびきり笑顔のアメリ。


「はいっ、もうきれいさっぱりと! 全部ジョウブツしたと思います!!」


「……な、な、なんですって~~~~!? あ、あの、あのカードには、私の大事なお相手の……!!」


 私はアメリに文句を言おうとした。


「だってぇ、ジオツキーのカードだって思ったんですよぉ?」


「う、う、う~~~ん…………」


 ポシェットにしまい忘れたのは私だし……

 浄化の魔術にしようって言ったのも、確かに私……

 ジオツキーのカードと一緒に、私の大事な大事なあのカード、あの時全部、浄化の魔術で燃やしてしまっていたなんて……!


 私を幸せへと導くカードを…きれいさっぱり燃やしたのが…、じ、自分だったなんて~……ううう……


 わ、私の希望っ! 

 私の、幸せがあぁ……!


 あー、め、目の前がぐらぐらするわ。

 あー、目が回って来た…

 

 ああこれはもう、意識を、きっと、手放してしま…うのだ…わ……

 

 ――私は、目の前が真っ暗になった。


「キャ~! フェリカ様が、倒れた~~~!」


 アメリはそう叫んだけど。

 でも。

 真っ暗になったのは一瞬だけなのよ。

 私は座席の足元で両手両足をついていたし、両目もしっかり開いていたわよ。

 ショックで気なんか失ってられないわ!


 アメリの声に驚いたブロディンが馬車の後方の窓から覗き込む。


「お嬢っ、大丈夫かっ?」


「大丈夫じゃないけど大丈夫よっ!」


 こ、こんなことで、い、意識を無くしてなるもんですかあ!!

 私はフラフラと頭を起こし、両手でがっちりと座席をつかんで座り直した。


 慌てたブロディンの声が窓の外から聞こえてきた。


「ジオツキー、お嬢が大変だ!」


 ジオツキーは平静に言う。


「元気な声ですよ。大丈夫でしょう、いつものことです」


 殺気立って肩でぜえぜえと息を繰り返す私に、アメリが恐々と声をかけた。


「フェリカ様ぁ、ス、スイーツでも、た、食べますかあ? 元気出ますよぉ?」


 アメリがおずおずと差し出したのは、あのメレンゲのスイーツだった。


 私は両掌につかめるだけつかむと、口いっぱいに頬張った。

 そしてむしゃむしゃと食べまくる。

 アメリの唇が『もったいない』と動いたけど、構うもんですか。


「もほお、ほんにゃほとへ、わはし、はけないんらからあ!!(もうこんなことで、私負けないんだから!!)」


「へっはい、いいひほ、ひふへるんははら!!(絶対いい人見つけるんだから!!)」


「ほんはふわ、はえふひ、はるほひよお!!(婚活は前向きあるのみよお!!)」


 頬張ったスイーツをガシガシ噛みまくって、ごっくんと飲み込んだ。





 馬車は街道をさっそうと駆けていく。


 私はこんなところで(つまづ)いているわけにはいかないのだ。


 自棄(やけ)になった私は馬車の窓を勢いよく開けて、窓から身を乗り出した。


 ジオツキーとブロディンが驚いて私を見る。アメリも私の勢いに押されている。


 ちょっと風が冷たかったけど、熱くなった体には気持ち良かったわ。

 その気持ち良い風を、これでもかっていう位、胸いっぱいに吸い込んだ。


 そして、いつか巡り会えるだろうお相手と繋がっている青空へ向かって、大声で叫ぶ。





「よーーし、次、行きますわよ―――――、次っ!!!」



「それしか、な――――――――――いっ!!!!!!」









 ~ ~ ~ ~ Fine. ~ ~ ~ ~



王女なのに婚活に苦労してまして。

~このたび、会いたくなかった騎士と運命の出会いをしているようですが、それとは別件で歌劇場の殿下のために事件解決奮闘します!~(釣書姫シリーズ②)【終】




最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。

次頁は、あとがき&おまけコーナーです。読後の余韻に浸りたい方は、のちほどお読みくださいね。

登場人物へのインタビューコーナーもありますので、よかったらどうぞお楽しみください。


この物語が面白かったと思われましたら、ブックマーク、★、でどうぞ応援をよろしくお願いいたします!

そして、会員様だけでなく非会員様にも感想書き込みOPENにしています。ひとこと感想ウェルカムですのでどうぞ(^^)/ もちろんひっそり見守っていただくだけでもOKです♪



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― 新着の感想 ―
[一言] いやむしろ出資引くなら損害賠償とってもいい案件なのでは!? 問題起こしたのはアンタの娘だろーが! ……と、誰かさんに激しくツッコみはするんですが、劇団としては取りにくいんでしょうねえ…… そ…
[一言] アクティス、つくづく好青年でしたね。身を挺して好きな子をかばって、なんていじらしいんでしょう。それなのに、それなのにフェリカときたら……この鈍さでは婚活なんて10年早くてよ! アメリにだって…
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