【7】人気俳優アクティス・レジェ―ロ その2
「ねえフェリカ、十六歳で君、婚約しただろ? あの人が死んじゃってさ、そのあとも婚約者五人が次々死んだって話……あれ本当なのかい?」
ええっ!? なにその噂? そんななっちゃってるの?
「ご、五人ですって!? そんなにいるわけないでしょっ? 違うわ二人よ、全部で二人! 流行り病と事故! 一度も会ったこと無い人たちだったのよ?」
噂って尾ひれが付くって言うけど、ホントだったんだ‥‥‥
アクティスは悪戯顔でくっくっと楽しそうに続けた。
「それにさ、君、世間では『釣書姫』って呼ばれてるって、知ってるの?」
私は頭を両手で抱えながら、学生時代からの悪友を睨みつけたわ。
「……知ってるわよ。ちょっと派手に釣書を送りすぎちゃって」
トゥステリアのフェリカ姫といえば、釣書姫。
有名すぎるこの話、もう聞きたくないわ。
「それでさ、いい相手は見つかったのかい?」
「見つかってたら、わざわざカルド国まで来ないわよ」
「え、僕の舞台を見に来てくれたわけじゃ無かったの!? うわ、ショック! ……傷つくなぁ」
アクティスは金髪をガシガシと掻き上げて、わざとおどけて見せた。
こういうところが彼の人気の秘密なのだろう。美しい容姿だけでなく、なんか人を惹きつけるのよね。 学生時代もクラスメイトから人気があったもの。
「じゃあどうして、カルド国のアルマンまで?」
「明後日、アルマンの、婚……うーんと、パーティに出席するのよ」
婚活パーティと言いそうになって、『婚活』を省いて伝えたわ。
そりゃあ、私だってプライドがあるもの!
「あ、もしかして、豪商ヤトキンが主催する、大婚活パーティに出席するのかい?」
「…っ!」
ごほごほごほっ……!
咳混む私の背中をアメリがさすってくれた。
私のプライドは、秒で砕け散っちゃったわよ。
「フェリカ! 君みたいな素敵な女性、婚活パーティなんかに出席することないよ! ほら、相手に僕はどう? なかなかイイ男だろ?」
そう言いながらアクティスは、劇中のロミオ王子様のように膝を付いて礼をした。
「もう、何言ってんのよアクティス!」
私は、昔から変わらないアクティスが可笑しくて、笑って往なした。
「ホント、傷つくよなあ。昔から、フェリカってさ」
アクティスは小声でそういうと、自分の椅子にどっかりと座って足を組んだ。
「じゃあさ、僕にその婚活パーティで君をエスコートさせてよ。実はそのパーティで余興を頼まれててさ、僕も招待されてるんだ」
「えっ」
「僕と一緒に参加すればさ、君、注目浴びるし、出会いのチャンスも増えるんじゃないのかな? まあ君はどうしたってその容姿だから、男はほっとかないと思うけど」
その話にアメリが真っ先に食いついた。
「フェリカ様、これはいいお話じゃないですかぁ? アクティス殿下と一緒に参加すれば、名乗っても邪険にされることは無くなりますよ!?」
悪意なく内情をばらす、天然娘アメリ。
まずその口を塞ぎかったけど……まあ確かにそうね。その意見は一理あった。
「名乗ると邪険にされるのかい?」
目を見開いて驚くアクティスに、
「聞いてくださいよ~、アクティス殿下!」
アメリがぺらぺらと喋り出す。
恥ずかしいから、あの口、即刻止めたいわ。
しばらくアメリの話を面白そうに聞いていたアクティスは、私に同情をしてくれた。
「そりゃ、ひどいね? まったく、見る目が無い連中ばかりだ。やっぱり僕がお相手として立候補するのがいいよね?」
「すぐそういうこと言うんだから」
私に再び学生時代の時のように往なされて、アクティスは肩をすくめる。
「とにかく、安心して。豪商ヤトキンの婚活パーティでは、僕がしっかりエスコートさせてもらうよ。邪険にされないようにね」
そう言ってアメリにウインクする。
「殿下! フェリカ様のこと、よろしくお願いしますっ!」
アメリはお祈りのポーズでアクティスを拝む。
ところで、アメリ。いつの間にかアクティスを『殿下』呼びしてるんだけど?
「フェリカ、ここで話しているのもなんだし。今日はこの昼公演だけだからさ、夜は休みなんだ。よかったら、食事に行かない?」
そう言って、アクティスはアメリにサインしたペンで、カードに店名と住所、そして署名をさらさらと書いて私に手渡した。
「この店は一流店だけど、トゥステリア王国と違ってカルド国は治安が良くないんだ。だから十分気を付けて来てね」
アクティスは私たちを楽屋口まで見送りにきてくれて、近くに先程の眼鏡のお姉さんがいたので、声をかける。
「僕の大事なお客さんだから、入り口までお見送り宜しく頼むよ」
お姉さんはアクティスとジオツキーを交互に見ながら「はいっ」と可愛らしく返事をしていたわ。
――するとにわかに、楽屋の奥の方がバタバタと騒がしくなった。
「大変だ! クララが倒れた!」
「おなかが痛いって!」
「クララは代役の子なんだよ、今日、急にいつもの女優が休んだからさ」
アクティスも心配そうに振り返る。
「ここはいいから、早く行って!」
「ごめん、フィ―。じゃああとで!」
アクティスは申し訳なさそうにそう言うと、慌てた様子で楽屋の奥へと戻っていった。
そのアクティスの背中を心配になって見守っていると、眼鏡のお姉さんがここは関係者以外はお断りだといわんばかりに、早々と私たちを外へと促した。
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次回【第8話】ひとり楽しいお出かけを