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【66】反撃 その2

「ここはお願いしますよ、アメリ。私は案内係を見つけてきます!」

 

 ジオツキーは厳しい目つきになると勢いよく立ち上がった。


「ええ? フェリカ様を見つけてくるんじゃなくって!? ちょっと、ジオツキー?」


 ジオツキーから見れば頓珍漢な質問をするアメリを残して、慌ててボックス席を飛び出した。


(わたくし)としたことが、どうしてつながらなかったんだ!?」


 自責しながら急いで階段を降りて、あの眼鏡の小柄な案内係を探す。

 しかし一階には見当たらなかった。

 舞台袖を(のぞ)いたが、そこにもいない。そしてフェリカの姿も無かった。

 ジオツキーが顔を覗かせたので、マルコスがどうしたのかとやってきた。


「フィー様は?」


 尋ねるジオツキーにマルコスが答える。


「先程、案内係とボックス席へ向かわれましたが?」


 ジオツキーの顏から血の気が失せる。

 ボックス席から同じ道を反対にやって来たが、フェリカたちとすれ違いはしなかった。ということは、自分たちがいたアクティスのボックス席とは違う場所へ連れて行かれたのだ。

 急いで舞台袖を後にし、今来た道を戻る。

 二階席への階段を登ろうとすると、あの眼鏡の案内係が階段の上から降りてきた。ジオツキーの顔を見ると、明らかに女は表情を強張らせた。

 ジオツキーはその顏を見て確信した。


(やはり、思った通りだ!)


 軽く会釈をして通り過ぎようとする女の手首を、ジオツキーはぐっとつかんだ。

 思ってもいなかった行動に、女は驚いて立ち止まる。

 ジオツキーはその腕を自分にぐいっと引き寄せて、愛を囁き合う程の至近距離から、絶対零度の眼差しで女を凝視した。


「お嬢さん、私の記憶が正しければ、昨夜もパーティでお会いしましたね? あなたには、歌劇場だけでなく素晴らしい館も案内していただいて、お礼を申し上げなくてはなりません」


「ひっ……!」


 女は、端正な相貌に留まる冷酷すぎる瞳を眼前にして、恐怖で背筋を凍らせた。






 アメリはボックス席のドアが開いたので、フェリカが入って来たのかと思い笑顔を作りかけたが、その眉間に皺を寄せた。

 重厚なカーテンを開けて入ってきたのは、ジオツキーに手首をきつく握られたあの案内係だったからだ。


「ジオツキー、一体どうしたの……?」


「アメリ、この女はエルムの侍女ですよ。昨夜、館で会ったでしょう?」


 アメリはしげしげと女を見てみた。劇場では案内係の制服に眼鏡姿だったので、全く気が付かなかったのだ。


(そうだわ、確かに昨夜、館で会った……!)


「フィー様をどこに案内したのか、口を割らないのです。私はフィー様を探してきますから、アメリ、この女を見張っていてください」


 ジオツキーはそう言い置いて、すぐにボックス席から出て行ってしまった。


「ええっ、ジオツキー! 見張ってるなんて、そんなこと私にできるわけないじゃない!」


と小声で叫んで振り返ると女と目があった。

 女はジオツキーに手を離されて自由になったのだ。それに相手がアメリだとわかるとすぐにでも逃げようと動いた。


(絶対、逃がしちゃダメッ! もおっ、この女、私の大事なフェリカ様をどうしたのよおっ)


 アメリの頭の中は、怒りで噴火した煙がモクモクと湧いた。

 逃げられてなるものかと、女を両手で制して行く道を防ぐ。

 女を怒鳴ってやりたかったけれど、ここはボックス席。左右では別のお客が観劇中だ。

 怒りを押し殺して静かに言ったら、いつもの口調ながら自分でもびっくりするぐらい、低くて冷ややかな声が出た。


「あの、ちょっと待ってくれます?」


 その声の調子に女はびくりとアメリを見た。アメリは間髪入れずに呪文を唱える。

 すると、女の制服のスカートの(しわ)が伸びて布地に張りが生まれ、みるみる綺麗になっていった。

 綺麗にはなるが布地はチリリと熱を帯び、その熱さは刺すように肌へと伝わってくる。驚いた女は、急いでスカートをゆすって熱を払った。

 アメリは静かに女に言った。


「ああ、動かないでくださいねぇ? 制服、まだだいぶ皺がついてます。私ね、生活魔術が得意なので、今すぐキレイにして差し上げますね。でもじっとしててください? もしかしたら()()()()()()()()()()()()()()しれませんから」


 女は恐怖で微塵も動かず、引き攣った表情になった。

 その様子を見てアメリは、


「あら? わかってくださいました?」


 にっこりと極上の笑顔で微笑んだ。








次回【第67話】逃走 その1


いつもお読みいただきどうもありがとうございます。

物語、ラストスパート中です(^^)/ そしてこの物語は全74話でお届けしています。

そう、最終回、近いんです……!

でも千秋楽、まだまだ何か起こりそうなので……

どうか最後までフェリカ達への応援を、よろしくお願いいたします<(_ _)>


【追伸】 以前ご案内した前作最終回最後の馬車シーン、もしよかったらお読みいただけると、この物語の最終話がより面白くなるかもしれません…(※あき伽耶個人の感想です(^_^;))

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