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【62】開演

 エルムの見張りをアメリとジオツキーに任せ、ブロディンと私は舞台袖でスピアとクララを警護することにしたわ。私たち二人なら、魔術も使うことができるしね。

 マルコスが私たちを舞台袖に案内してくれた。


「できるだけお話はしないでください。観客席に聞こえてしまいますから」


 開演前のベルがホールに響き、舞台袖が緊張に包まれた。

 主演のロミオ王子のアクティス、ジュリエット王女役のスピア、女中頭役のクララ、その他役者や踊り手が、ピタリと話を止めた。私とブロディンはピンと張り詰めた空気の中、上手(かみて)下手(しもて)の舞台袖へ分かれて、そっと入った。

 

 オーケストラが歌劇の始まりを告げる序曲を演奏し始める。幕が開くと曲の雰囲気が一変し、ロミオ王子の登場だ。

 ずっと舞台を向いたままだったアクティスが、軽やかに舞台中央へと走っていく。森に狩りに来たロミオ王子が鹿を追ってきた場面だ。観客がわっと湧いて大きな拍手が起こる。待ちに待った大人気俳優アクティス・レジェ―ロの登場に会場は一気に盛り上がった。

 アクティスが快活な若者を彷彿とさせる伸びやかな歌声で、狩りを楽しむロミオ王子の心情を歌い上げる。あっという間に観客は彼の魅力に惹き込まれて行った。


(すごいわ、アクティス。本当になんてすばらしい役者なのかしら……!)


 ロミオ王子とスピア演じるジュリエット王女は舞踏会で運命的な出会いをする。しかしジュリエット王女はロミオ王子の母の姿に化けた魔女によって別の女性の姿に変えられてしまう。仕方なくジュリエット王女は、別の女性の姿で昼間は侍女としてロミオ王子の王宮で働き始める。

 そんなロミオ王子をモノにしようと、魔女の手下、クララ演じる女中頭はロミオ王子を色仕掛けで落とそうとする……

 うっとりしたり、悲しくなったり、笑ったりしながら、観客は役者たちから感じる千秋楽の熱い想いを受けて、舞台を見守っていたわ。


 私は舞台袖からもエルムの様子も見ることができたので、時々様子を伺った。エルムも夢中になって舞台を見ていたわ。

 彼女がこの千秋楽で、何か危害をスピアやクララに与えようなんてこと、本当に考えてるのかしら、何かの間違いではないかしらとそう思わせられた。それ位エルムは瞳を輝かせながら歌劇に夢中になっていたのだ。

 

 あっという間に前半の舞台が終わると、休憩のベルが鳴った。


 アクティスは舞台上から掃けてくると、私を見つけていつもの笑顔を浮かべた。といっても、劇中もアクティスは私に気が付いていたのだけれど、さっきまでのアクティスは『ロミオ王子』だったのだ。


「フィー! 良かった戻ってきて! どうなっちゃったんだろうって本当に心配したんだよ?」


 スピアとクララを警護しながら、ブロディンと私はアクティスと共に楽屋へと向かったわ。

 舞台の半分が無事に終わって、少しほっとした表情のマルコスも一緒についてきた。

 役者たちが、休憩時間に化粧を整えたり、衣装を着替えるために楽屋個室に入ったので、ブロディンと私は部屋の前で待機していたわ。

 楽屋は大勢の役者や踊り手が行ったり来たりと混雑していた。マルコスは大部屋にいる者に声をかけたり、あちこちと忙しく動いていた。この場所にエルムが紛れて入って来やしないかと、目を凝らしてその姿を探してしまうわ。

 

 ガチャリ、と今閉まったばかりのドアが二カ所同時に開いた。スピアとクララだ。

 彼女たちは真っ青な顔で部屋を飛び出してくると、ブロディンと私に震える手で例のカードを差し出した。


『愛をこめて クイーン』


 フチがわずかに緑色のそのカードには、あの赤い文字で書かれていた。


「机の上にカードが置いてあったの」

とクララが震えながら言う。


「楽屋口には、劇場のスタッフがずっと立っているのよ? 開演前はこんなカード無かったのに……!」


 スピアは胸の前で片手をぎゅっと握りながら、もう片方でクララの肩を抱き寄せて、安心させようとしていたわ。


 エルムが開演中に楽屋に忍び込んだのかしら? いいえ、舞台袖から様子を見ていたけれど、エルムが席を離れるようなことは一度も無かったわよね?


 すると、後ろからよく聞き慣れた声がした。


「おそらく、クイーンの息のかかった者が劇場関係者にいるのでしょう」


 スピアとクララのカードを受け取りながら現れたのはジオツキーだった。

 ジオツキーは続けた。


「客席では特に変わった動きは無かったと、フィー様に報告に来たのですよ。アメリは今、()()の後を着けて喫茶室に行っています」


 ジオツキーはマルコスから口留めされていたので、エルムの名前を出さずに話す。

 ガチャリ、と今度はアクティスがドアを開けて顔を覗かせたわ。私たちの話す声が聞こえたのだ。

 私たちの張り詰めた雰囲気を感じたマルコスが戻ってきて、アクティスと共に話の輪に加わった。

 その中をスピアが言い難そうに話し出した。


「皆には言わなかったのだけど、実はこのカード、以前にも私に届いていたのよ」







お読みいただきありがとうございます。


次回【第63話】役者たちの想い


10日 18時代に投稿します。

毎日投稿していますが、都合により時間を変更しています<(_ _)>

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