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【59】人間族と闇小人族

「それはあんたが闇小人族だからだろう? 人間はな、生きても100歳だ」


 ブロディンが思わず呆れる。


「人間族のことなんざ、知らん!」


 ブロディンにびくびくしながらも、爺は噛みついた。


「わしは魔道具を売りたい者や買いたい者がいるから求められてこの店をやっとるんじゃい! どうなろうと、わしには関係ない!」


 私は爺の言葉にカチンときた。


「関係ないですって? なんて無責任なの……!?」 


 思わず私は心の中の思いを口に出していた。

 だって、ミカのことを思うと、この爺の言い草がたまらなく悔しかったのよ。

 もし私が彼女だったらと思うと、その気持ちを想像すると……! 

 手が震えて(うなじ)が熱くなる。


「彼女はね、やりたい夢があったのよ? あなた、長く生きてるのにどうしてわからないのよ……? 売買しているだけだから関係無いなんて、よく言えるわね!?」


 怒りに震える私の魔力が、ざわりと溢れだしそうになった。

 満月に近い時期は、月の加護者の私は魔力がとても強力になる。常時魔力が強いわけでは無いので、強すぎる魔力は感情に引っ張られてコントロールを失いそうになってしまうの。

 私の感情で引火した魔力が身体の奥から湧き上がる……

 その時、ぽん、とブロディンが私の肩を軽く叩いた。


「お嬢、それ以上は」


 ブロディンが強い眼差しで私を制止して、首を横に振った。私の急激な魔力の流れを感じたのだろう。

 ブロディンのお陰で私はハッと我に返って、慌てて気持ちを納めるために深呼吸したわ。


 けれど私の言葉を聞いた爺の赤い目がすうっと細くなり、私を厳しく睨みつけていた――どうやら、爺を本気で怒らせてしまったようだ。

 ……でも、私の言ったこと……間違ってないわ。


 ジオツキーが、私の背後から苛めた。


「フェリカ様、言い過ぎです。生きてる時間も価値観も、人間族と闇小人族では違い過ぎます。それにここは、彼が店の主人です。フェリカ様の気持ちはわかりますが、堪えてください」


 爺の手前を考えてのジオツキーの発言だとはわかってる。でも私には言いたいことが山ほどあった。……だけれども、ここで爺の機嫌を損ねるわけにはいかないわ。

 私は開きかけた唇を我慢して、きつく結んだ。


 ジオツキーはその静かな口調のまま爺に話し出す。


「あなたは利得があれば、手鏡の女のことを話すのでしょう? では、もしも話してくれたのなら、あなたにユニコーンたちの扱いを教えて差し上げますが、いかがです?」


「な、なんじゃと?」


「五百年もご苦労されていたとか。きっと今までご存じなかったんですね?……実は、彼等を手懐づけるには策があるんです」


「策!? そんなものがあったのか! ちっとも知らんかったぞ?」


「とっておきの方法があるんですよ。どうですか? 知りたいです?」


「ぐぐっ……! クソッ!…………わ、わかった」


 爺はジオツキーの提案に従うのは悔しそうだったが、黒ユニたちによっぽど手を焼いていたのか、条件を吞んだ。

 さすがはジオツキー、交渉が上手いわ!


 ――爺は、赤い目を遠くに向けて思い出しながら話す。


「……そうじゃな、手鏡を買いに来たのは婆さんではなかったな」


「え、じゃあ若いってこと?」


 その場の空気が(ゆる)んで安心したアメリが、口をはさむ。


「いやわしは、人間の女の年齢の区別はよくわからん、婆さんかそうでないかぐらいじゃ」


 アメリが途端に、『この爺、役に立たないわね』って顔をする。


「何年も前に買いに来たんじゃから、よく覚えとらんで当然じゃろ? ただ人間の娘の割には整っておったぞ」


 それって美人だったってことかしらね? 闇小人族の基準が人間と同じならば、だけれども。

 私も尋ねる。


「髪とか目の色、覚えてない?」


「じゃから、ずいぶん前だったんじゃって。覚えとらん!」


 私は爺の落ちくぼんだ赤い瞳をじっと見据えたけど、おそらく本当なのだと思った。

 ここは時間があって無い所。クイーンがここに手鏡を買いに来たのは最近では無くて、ずいぶん前のことだったのだ。だから爺はほとんど覚えていなかった。

 そして高齢の女性では無く、割と美人だってこと位しかわからなかった。

 せっかくここまで来たのに……、やっと爺が喋ったのにほとんど手がかり無しなんて……がっかりだわ。


 私が落胆している横で、お喋りのアメリが爺に話かけていた。


「ねえねえ、ここの魔道具ってどんなものがあるんですかぁ?」


「娘っ子、おまえ欲しい魔道具があるのか?」


 アメリの質問に、爺は商売の匂いを感じたようだ。


「そうじゃな、娘っ子に人気なのは、呪いの香木とか、魅了の魔花とかじゃな。どうだ? 買うか?」


 そう言いながら、アメリに見せようと、部屋のあちこちに積んである古の魔道具を引っ張り出して来ては、次々とカウンターに並べていく。並べる爺の指には、零れんばかりの十個の指輪。業突く張りの爺が、おそらく客から巻き上げた物なのだろう。稀少なアレキサンドライトやタンザナイトの指輪もあった。

 うん、絶対、悪どい商売をしているに違いないわね。


「そーゆうのは興味ないんですどぉ、昔が見える魔道具とかって無いのかなあって」


「あるぞ? ただし、自分の経験した昔しか見えないが」


「ええ? あるんですかぁ?」


 はしゃぐアメリに、爺は張り切って、店の隅から双眼鏡に似たその魔道具を取って来た。


「おお、これは珍しく聖魔術で作られた魔道具じゃな。おまえ、これは掘り出し物じゃぞ? 試してみるか?」


 アメリは可愛くニコッと笑う。


「はい! でも私じゃなくて、お爺さんがやってみて?」


「なんじゃと?」


「だって忘れちゃったんでしょう?その女のこと。じゃあ今、ここで思い出してみてくれます?」 







いつもお読みいただきありがとうございます!


次回【第60話】クイーンの正体




※GWで、一気読みしてくださる方や前作読んでくださる方が! そして童話や短編に関心を持ってくださった方も。多分これを読んでくださっているはず……なので、GW以前に寄ってくださった方も合わせまして、お読みいただきどうもありがとうございます、嬉しいです(^^)<(_ _)>

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