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【56】古の魔道具屋へ その1

 私の祖母、偉大なる魔術師リンダは、(いにしえ)の魔道具屋についてこう語っていた。


『古の魔道具の売買を求める者には容易に辿り着ける場所。だがそうでない者が辿り着くのは難しい。業突く張りの爺が来店客を選んでいるからね。……この街で一番悲しい涙が流れる泉に行ってごらん。朝の光が訪れる直前にこう言うんだよ。

〈暁闇の狭間、太陽がもたらす最初の光、その光水面に戯れる時、黒き使いよ古の音響く洞へ我を導け〉』


 *


 私たちは夜明け前に、歓楽街カプロキド入口に向かい合う、元は泉だったという噴水にやってきた。もうすぐ朝が来るというのに、魔灯揺らめくカプロキドの店通りは賑わいを保っていた。一方、この噴水は華やかな雰囲気とは無縁で、古い時代の造りのせいか簡素で小さく、ほとんど人の関心が払われない寂しい場所だった。

 リンダが言っていた『この街で一番悲しい涙が流れる場所』という言葉がぴったりの場所だったわ。

 東の空は、まだしばらく太陽は顔を出しそうになく、とっぷりと夜の闇が支配していた。


「フェリカ様ぁ、私たち本当にその魔道具屋に辿り着けるんですかぁ? 『魔道具を売買する者しか入れない店」なんですよねぇ?」


「……俺たち招かれざる客だからな」

 

 ブロディンが、ぼそりと言う。

 ジオツキーが懐中時計を見ながら緊張した声をあげた。


「そろそろ、ですよ!」


 東の空の重く垂れこめた夜闇の奥で、朝の兆しがうっすらと漂い始める。

 私は噴水に手をかざしながら、リンダに教わった呪文を詠唱した。


「暁闇の狭間、日がもたらす最初の光、その光水面に戯れる時、黒き使いよ古の音響く洞へ我を導け!」


 小さな噴水の水が、どくん、と脈打ったように感じた。

 しかしそれは気のせいではなかった。あとに続く水が、どくんどくんと生き物のように動き出す。少なかった水量がどんどん増えて、溢れだした水は噴水の縁を乗り超えた。自由になった水は私たちの足元へと広がり続け、足首まで水に浸かってしまったのだけど……不思議なことに足には全く濡れた感覚が無かったの。

 そのことに気が付いた私たち四人はお互いの顔を見合わせた。同時に、周りの風景が一変していることにも驚いた。


「どうなってるの……?」


 歓楽街カプロキドは跡形もなく消えて、傍にあるのは噴水と、今や湖のように広く、さらにその先へ伸びていこうとする水だけだ。

 噴水から溢れて流れていく水音に混じって、私の耳は別の小さい音を捉えた。

 それがなんだかわからずに耳を澄ましていると、ジオツキーが断言した。


「馬の(いなな)きですね」


「本当に?」 

 

 私の問いにジオツキーは黙って頷いた。

 その音が近づくにつれ、私の耳にも馬の嘶きが判り、合わせて蹄の音も聞こえてきた。

 そこにあるのは、ただただ水面。それなのになぜだか蹄の音がする。

 そして消えた景色に、濡れない足。

 私たちが特別な空間とやらに既に入り込んでいることは確かだった。


 程なくして、二頭の馬が現われた。気性が激しいのか鼻息が荒く落ち着かず、体を()ねさせながら私たちのところへやって来る。

 真っ黒な毛並み――呪文には『黒き使い』とあったわね。

 でもよく見るとそれは見慣れた馬では無かったわ。私の知っている馬よりもかなり大きく、耳と耳の間には、長く黒光りする一本の雄々しい角が生えていたのだ。

 アメリが初めて見る生き物に、(こぼ)れ落ちそうなほどの団栗眼(どんぐりまなこ)になる。


「……ユニコーン?」 


「違うんじゃない? ユニコーンは白いわよ?」


 私たちの会話がわかったのか、黒い二頭の馬は鼻息をいっそう荒くして大きく嘶き、前足を上げた。

 ……もしかして、今の発言に怒ったのかしら!?


『何しにきたのじゃ、お前たち!』


 黒いユニコーンが喋った! ……ように聞こえたけれど、違うようだ。

 おそらく喋っているのは、業突く張りの爺ってリンダが言ってた魔道具屋の店主だ。

 この前、私がミカのアパルトメントでピーちゃんの目を借りたでしょう? おそらくあれと似たようなことね。爺が黒いユニコーンの目や口を借りているのだ。


『お客かと思ってわざわざ(のぞ)いてみれば。魔道具の売買に関係無い者はお断りじゃ!』


 リンダの言う通り、爺は私たちを追いかえそうと、(しわ)枯れたキンキンと突き刺さる声で突っ張ねた。


「ねえ私、あなたに尋ねたいことがあるのよ! 魔道具屋を訪問させてもらえないかしら?」


『ふん、わしにはお前らに用は無い。帰れ帰れ!』


 黒いユニコーンたちはやたらと不機嫌だ。爺の声が聞こえるたびに暴れ馬のように身をよじる。

 馬たちの様子を見兼ねたのだろう、暗い表情をしていたジオツキーが二頭にすっと手を差し伸べた。


 わわ、ジオツキー!? そんな暴れ馬、あっ違った、暴れ黒ユニコーンに近づいたら危ないわよ!?







いつもお読みいただきどうもありがとうございます!(^^)


【第55話】に感想をいただき、フェリカとアメリのきょうだい設定を少々書きました。よかったら覗いてみてください(#^^#)


次回【第57話】古の魔道具屋へ その2



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