【54】推理――犯人は誰? その3
【第54話に役立つ登場人物情報】
スピア:歌劇「ロミオ王子と鏡のジュリエット王女」のジュリエット役 主演女優
ミカ :古の魔道具の手鏡により、老婆に変えられてしまった女優。元の姿に戻るため、偉大なる魔術師リンダと共にトゥステリア王国へ身を寄せる。
クララ:ミカの代役。悪しき悪戯入りのクッキーで眠らされ、フェリカが白竜の鱗で目覚めさせた。ミカの代役を千秋楽も務めることに。
「違いますよ。このカード、アメリが買ってきたスイーツと同じ仕組みです。わかりませんか?」
ジオツキーの言葉に、アメリも、私も、ブロディンもぽかんとする中で、アクティスが言った。
「そのカードは、僕のカード。正確にいうと、僕の推し色カード……白いけれど実は緑色なんだよ。劇場で売ってるやつさ」
ジオツキーは頷いて、私たち3人に説明する。
「このカード、一見白いですけど、よく見るとフチのところが緑です。わかりますか?」
「ほんとだぁ!」
アメリがカードを受け取って、目を皿のようにしてカードのフチを確認する。
私も、さっきアクティスにもらったカードをポシェットから取り出した。よく見るとフチが緑に染まっている。でもなんでこんなわかりにくいところに色付けしているのかしら。
アクティスはカードの束を内ポケットから取り出して、私たちに側面を見せてくれた。正面から見ると白く見えるカードもこうやって束になり何枚も重なると、確かに緑だわ。
「ファンの気持ちってよくわからないけどさ、こういう隠れた仕様も好きみたいなんだ。僕のカードは緑、スピアはピンク、ミカは黄色のカードが売ってるよ」
「ええ!? じゃあもしかして、あれもそうかも!」
そう言うとアメリは自分のバッグから、何枚ものカードを取り出した。
アメリが出したそのカードは、ジオツキーに贈られた女性たちからのカードだった。
それを見てジオツキーの血相が変わる。
「アメリ! 捨てたんじゃなかったのか?」
叱りつけるような口調のジオツキーに、アメリは全く取り合わない。
「だって、この部屋の屑箱には捨てにくくて仕方ないから持ってたんですよぉ? 大体、自分で処分せずに、年頃のうら若き娘の私にこんなことさせようとするんですから、どうしようが私の勝手ですよーだ」
頬を膨らませたアメリは珍しくジオツキーに反撃する。確かにここでは捨てにくい。かといって歌劇場ではもっと捨てにくい。……私もアメリに押し付けたまんまにしちゃったし。ごめんねアメリ。
そのアメリは、ジオツキーを知らんぷりしてカードのフチを確認する。
「あ、これは黄色! こっちはピンクです!」
私とブロデインも見せてもらうと、何種類かの色のカードがあるのがわかった。
もちろんジオツキーは決してカードには手を触れなかったし、見ようともしなかった。
「つまり、クイーンのカードが2枚とも緑ということは、クイーンはアクティスのファンだということなのね?」
「ミカの物が無いから断言はできませんが、おそらく」
と、いつもの冷静さを取り戻したジオツキー。
「アクティス殿下のファンであるクイーンは、要するに、殿下に近づく者が許せないのでしょう。そう考えるとパーティの犯人もクイーンということになるやもしれませんが」
「そうなると、お嬢もクララも気を付けたほうがいいな。だが一番危ないのは、カードが届いたスピアだな」
ブロディンがメレンゲクッキーをすごい勢いでむしゃむしゃと食べながら言う。
「ねえブロディン、これ気に入ったの?」
「うまい。それに卵は筋肉にいい」
微妙な味の差をちゃんと感じて食べているのか気になったけど……無精髭に隠れた頬がゆるんで嬉しそうだったから、まあいいかしらね。
ジオツキーが脱線しかけた私たちに咳払いをした。
「そのスピアですが。……彼女がクイーンかもしれませんよ?」
その言葉にアクティスが心外だと意見した。
「彼女は主演女優だよ? 舞台が困るようなことするわけないよ?」
「すみません、これはあくまで仮定の話ですよ。……スピアは『カードがドアに挟まっていた』と言ってましたが、それを見たのは彼女だけですよね? 彼女ならアクティス殿下のファンの仕業に見せかけて、クッキーや手鏡を楽屋に置くこともできるのです。私はスピアが犯人だと断定しているわけではありません。ただあらゆる可能性を考えているだけです」
ジオツキーの話に私はあることを思い出していた。――そういえば、クララが眠らされて、私が皆さんに説明をしていた時、話している途中だったのにスピアは一人で先に帰ってしまった事があったわよね……。あれって何だったのかしら……?
「それと推測の域はでませんが、その名前からしてクイーンはおそらく気位が高い者でしょう。主演女優ですから、そのような気概は持っていると思いますよ」
それにしてもさすがはジオツキー。王宮近衛騎士団の元団長の推理力はすごい。
「クイーンのことも、パーティで魔術を使った者のことも、結局は、今の時点ではなんとも言えませんが」
ジオツキーがそう結ぶと、ブロディンも賛同した。
「まあとにかく、明日の朝の魔道具屋でクイーンの手がかりを手に入れるしかないだろ?」
と言い終えて、ティーカップを鷲掴みにして紅茶を飲み干す。
「お天気、良さそうですもんね?」
アメリが目をやった窓の向こうには、立待月(十七日月)がまだ満月に似た丸い形を保っていた。
アクティスは硬い表情でやおら立ち上がると、胸に手をあてて頭を下げ、正式な礼の姿をとって私たちに詫びた。
「フェリカ、みんな。僕の厄介事に巻き込んでしまって本当に申し訳ない。本来なら魔道具屋は僕も一緒に行くべきなんだけど……」
「だからそれはもう気にしないで? こういうのってなんでだか分らないんだけど、よくあるっことっていうか……なんか慣れてるっていうか……、だから、任せてくれていいのよ? それよりね、アクティスには歌劇を全力で成功させて欲しいわ」
私はにっこりと笑顔を作って、アクティスを安心させた。
「そろそろ、お開きにしましょうか。明日のためにゆっくり休んでおきましょうよ」
いつもお読みいただきどうもありがとうございます(^^)
次回【第55話】失くし物、あります。













