【48】ロデム その1
ロデムが口を開いた。
「フレデリカ。怪我の具合は、その後どうなんだ?」
ああっ、よかったー! 違う質問で。
そうよね、怪我の手当てをしていただいちゃったんだもの。
「だいぶ良くなりました。ほら、もう腫れも引きましたわ」
「まだ痛むんじゃないか?」
「無理しないように気を付けています。ありがとうございます」
私は笑顔を作って会釈した。
……うーん、いつこの場から失礼しようかしら。
「それより、さっきのはどういうことなんだ? 魔術の仕業だな? 明らかにフレデリカを狙っていた」
それそれ、そのフレデリカって馴染まないわ、と思ったけど……自分でつけた名前だったわ。
私はロデムをずっと立たせておくのも申し訳なくて、ベンチの隣を譲った。
……どうやらすぐには失礼出来ないわね。しばらくお話するしかないか……。
ロデムは地面に散らばる薔薇を見ながら続けた。
「フレデリカも今、魔術を?」
この名前、やっぱり馴染まなかったけど……ここはアルマンのフレデリカになり切るしかないわね。
私は、トゥステリアのイントネーションを抑えながら話した。
「ええ、咄嗟に風魔術で、こっちに向かってきた薔薇を散らしたわ」
「その魔術でかなり助かった。降ってきたのがこの程度で良かったよ。……でもさっきの魔術は、君への悪意を感じる。……何か心当たりは無いのか?」
私は首を傾げた。
あるわけがないわよね。パーティ会場では特にトラブルなど無かったし。みんなにアクティスのことを教えてあげて、何をトラブルになるのかしら……。
「いいえ、全く」
「そうか、悪戯にしては度が過ぎていると思う。気をつけたほうがいい」
「ええ、ありがとうございます、そうしますわ」
私はそろそろ失礼しようとしたのだけど、ロデムのスーツの背中に、彼が私を庇って被ってしまった花枝がまだ幾つもついているのに気が付いた。
「……あのロデムさん、スーツにまだ枝が」
「ああ、ありがとう」
ロデムが枝を払うために、スーツを脱ごうとしたので私は止めた。
「あの、そのままでいてください。もし良かったら、私に魔術を使わせてくださいません? 衣装を綺麗にして差し上げられるので」
せめてそれ位させていただかないと。庇っていただいたんだし、申し訳ないわ。
それからこの場を失礼すればいいのだから。
ロデムは興味深そうに、目を輝かせた。
「是非お願いしたい……魔術を見てみたいんだ」
ランバルドのような北方の諸国は魔術を忌み嫌ってきたから、ロデムには魔術が珍しいようだった。……宵の明星亭でそんな話をしていたっけ。
「わかりました。ではそこに立っていてください。いいですか、よく見ていてくださいね?」
私が呪文を唱えると、ロデムの周りにふわっと風が起こり、衣装に付いた花枝がはらはらと落ちた。ロデムの銀髪もさらりと揺れる。
「すごい!」
私には日常見慣れているいつもの魔術。でもロデムにとっては初めて見る魔術。
銀髪と特有の色白の肌がそう思わせるのか、あまり表情を変えないロデムが目を輝かせて楽しんでいる姿に、彼の純粋さが垣間見えたような気がして、私は思わず微笑んだ。
「魔術は便利だな」
「そうですわね」
……なんだか私は、彼をもう少し喜ばせたくなってしまったの。
「ロデムさん、私あなたに二度も助けられてしまって。お礼に魔術の贈り物をさせていただけません?」
「お礼はいらないが……魔術の贈り物とは?」
「とても奇麗なんですよ。私が祖母から教えてもらった魔術なの。よく見ていてくださいね?」
私は自分の両手を胸の前方で合わせると、手の平を上に向け、そこに自分の魔力を集めた。そして光魔術の呪文を唱えて、集めた魔力に光を帯びさせた。私の魔力が金粉のようになって手の平の上でチラチラと光を放ち始める。私はそれに息を吹きかけた。
魔力の金粉がぱあっと舞い散る。そこにさらに風魔術をかけると、辺り一面に輝きが広がった。
空気の流れに乗ってチラチラと光り輝く魔力が、夜空の瞬く星のように漂う。
私はこの魔術が大好きで、小さい頃からよくリンダにおねだりをしてやってもらったの。
光り輝く魔力は夜空に浮かぶ黄金色の月の光を含み、ことさらに幻想的だった。
「綺麗だ……! まるで星空に迷い込んだような」
チラチラと明滅する光を、ロデムは惹き込まれるようにして見つめていた。
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次回【第49話】ロデム その2 続きます☆彡
毎日投稿していますが、都合により時間を変更しています<(_ _)>













