【47】助けてくれたのは
「ひどい……」
あんなに美しく咲いていた薔薇だったのに……
あの竜巻で、こんなになってしまったなんて、酷すぎる。
――それにしても、これは魔術の仕業だわ。
。
私は特急魔術師の魔術力でもって辺りの様子をうかがって視たけれど、術を仕掛けてきた者はもう立去ったのか、気配を感じることはできなかった。
「……君、大丈夫か?」
傍らに立つ男性の声で、私は我に返った。
横になったままの姿勢で動かなかった私を見て、男性に心配をさせてしまったようだ。
男性が手を差し出したくれたので、その手を借りてベンチに座り直したわ。
地面に散り散りになった薔薇から、助けてくれた男性に視線を移す。黒を基調としたサテン地の衣装に、薔薇の花びらや枝が引っ掛かってしまっていた。
「あの、ごめんなさいっ、私を庇ってくれたせいで……」
私は手を伸ばして、男性の服に付いた薔薇を払った。
あら、この人やけに背が高い。
「いや、自分でやる。君は大丈夫だったのか?」
そう言われて、改めて自分を確認する。体もドレスも特に問題は無かったわ。
「は、はい、大丈夫です。庇っていただいたおかげですわ。どうもありがとうございま」
お礼を言いながら男性の顔を見上げた私は言葉を呑んだ。
「あっ!」
さらりと流れる銀髪、そして北方民族特有の肌に映える青灰色の瞳。
見覚えがある。
この長身の男性は……!
二日前に宵の明星亭に行くとき、私を助けてくれた男性、そう確か、名前は……
「ロデム!」
相手も驚いた様子で私を見下ろしていた。
「……フレデリカ」
私はきょとんとして、ロデムを見上げた。
何言ってるのかしら、この人。
「フレデリカ?」
ロデムは私の顔を見ながら、確かめるように言った。
「フレデ」
リカってなんですか?
と言おうとして、思い出した!
私、偽名を名乗ったんだったわ!
あの時、適当に言ったものだから、すっかり忘れてた……!
「アルマンのフレデリカだね?」
そうそう、その名前で名乗ったのよ!
「ええ、ええ! そうですわ! よく覚えていてくださって……! ロデムさん、でしたわよね?」
全身の毛穴から汗が飛び出しそうなほど焦った私は、とりあえず取り繕うのに必死だった。
私は余裕の態度を示そうと、握手を求めて手を出した。
「俺の名前を憶えていてくれたのか」
ロデムは心なしか表情を緩めると握手を返してくれた。
「も、もちろんですわ」
……自分の嘘の名前、忘れてましたけどね……。
――ランバルド国のロデム。
ああ、なんでこんなところで会っちゃうんだろう? 私はこの人には、二度と会いたくなかったのに。
いい? フェリカ。絶対、トゥステリア王国の者だって悟られちゃダメ。
しかも一週間位前、一緒に湖水地方にいたとか。そこの魔術聖殿で私がパーティを滅茶苦茶にした張本人だとか。
私が『トゥステリア王国のフェリカ王女』だなんてバレたら、絶対絶対ダメなんだからね!!
私は心の中で自分に強く誓った。
もうはっきりいって、婚活どころじゃないわ、今すぐに帰りたいっ!
頭の中がひっちゃかめっちゃかだけど、とにかく何か話さなくっちゃ!
私は全身全霊で平静を装った。
「あの、ロデムさんはどうしてここに?」
問われたロデムは困った表情をした。
うっわ~、私のバカっ!!
こんなところ、婚活に来てるに決まってんじゃないの!
何を質問してるの私!
とんでもなく失礼なこと聞いちゃったじゃないの!!
「主に命じられて……ね」
「そうですの、ご主人さまに」
彼は騎士のようだっだから、ランバルドの身分の高い人にでも仕えているのだろう。主に命じられて、護衛兼参加とかしているのかもしれないわ。
……彼は命じられて参加しているからいいとして。
私はこんなに着飾っちゃって、どこからどう見ても、まさに『私、婚活パーティにやって来ました!』という人だわ。
お願いだから、『フレデリカはどうしてここに?』なんて同じ質問はしないでほしい……と心から願っていたら、ロデムが口を開こうとしていた。
ええっ!? そ、その質問、まさか私にも、しちゃいます?
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次回【第48話】ロデム













