【46】芳香と棘
ヤトキン自慢の高々と噴き上る豪華な噴水の付近では、何組かの男女がベンチに座って語らっていた。
私も誰かと出会ってロマンチックにお話したかったわ、とちょっぴり羨ましく思いながら、一人で彼らの脇を通り過ぎる。
大丈夫よフェリカ、まだまだ婚活パーティは終わりじゃないわ! うん!
とにかく私は一息いれたくて、薔薇園へ足を運ぶ。
休憩して、また元気出して、パーティに戻るのよ!
パーティは今が酣、そのせいか庭の奥に位置する薔薇園にはほとんど人がいなかった。しばらくの間、一人でそっと過ごしたい私にはかえって好都合だったわ。
薔薇のアーチをくぐると華やかな香りにふわっとくすぐられる。
様々な種類の薔薇の木が一定間隔に植栽されていて、それを魔灯が優しく照らしていた。自然光ではないから薔薇の天然の色は味わえなかったけれど、魔灯に浮かぶ薔薇はとても幻想的だった。
放射状に広がる薔薇園の中心にベンチを見つけて、私はほっとして座った。
誰もいないし、満喫できるわね。
薔薇の香りと幻想的な花に包まれて、夢心地だわ。
私は薔薇の甘く高貴な匂いを胸いっぱい吸い込んでみた。
すごくいい香り!
何回も胸いっぱいに吸い込んだ。
そうしていると、パーティでの緊張がほぐれてきて、心も体もリラックスし始めた。
やっぱりいいわねえ。
さっきのもやもやした気持ちはどんどん小さくなって、薔薇に幸せをもらって自然と笑みがこぼれてきたわ。
すっかりリラックスして、しばらく目を閉じて薔薇の匂いを堪能した。
さわさわさわ…
薔薇園を抜ける風が気持ちいい。胸の前に手を組んで、もう一度深呼吸する。
私は目を閉じたまま、幸せを味わった。
さわさわ… さわさわ…
ざわざわざわ…
あれ? 風がちょっと変じゃない?
私は不思議に思って目を開けた。頬をやさしく撫でていた風だったのに、急に強くなってきた。
幻想的な薔薇たちが、ざあっと大きく揺れる。
そこにうなり声のような低い風の音が聞こえると、突然突風が巻き起こった。
揺すぶられた薔薇の木から、花枝がいくつも千切れるのが見えた。それが空高く舞い上がる。
目を細めて見上げると、私の頭上で竜巻の様に大きな渦が巻いていた。
これは、何?
私の中で警戒音が鳴る。
一体、何が起きてるの!?
渦に巻き上げられたいくつもの花枝がぴたりと止まった。
竜巻が突如、消えた……?
「危ないっ!!」
男性の声が聞こえたと同時に、空中で動きを止めた花枝が、私を目がけて急降下した。
私は咄嗟に呪文を唱える。
誰かが私に覆い被さったと思ったら、そのままベンチに横倒しにされた。
え? ちょっと!? な、なに??
でも私の視界は塞がれて何も見えなくて、全く状況がわからなかった。
花枝が辺りにバラバラと落ちるが音がする。私がさっき風魔術で散らしたので、それが落ちてきたのだろうと想像がついた。
そのまま暫く耳を澄ましていたけれど、花枝が落下する音はもう聞こえなくなっていた。それに静かだったから、風も止んだようだ。
私は周囲の状況を把握したかったけれど、視界が何かに塞がれていて、できなくて……。
塞がれてる?
違うわ。なんか重い……。
それにあったかい。
そういえば、誰かが私の上に覆いかぶさって……
えっ、ちょっと待って?
じゃあ今私、どうなっちゃってるの!?
私は横になったまま冷静に自分の目を凝らした。
すると私の目の前には荒い息で上下する男性の黒いシャツがあった。
えっ?
なんだか私の背中と後頭部もやわらかい。
背中にあるのは固いベンチのはずなのに。
これって、誰かの手じゃないのかしら。
ええっ!?
も、もしかして、私、男性の腕の中にいるってこと?
腕の中って、そ、それって、抱擁ってこと!?
自分の置かれた現状がわかってきたら、急に心臓がバクバクしてきて、頬が熱くなってきた。
危険な目にあったから、それで怖くてバクバクしているのかもしれないわ。
「大丈夫か?」
声の主が身体を起こして立ち上がったので、私もそこで視界が開けたわ。
そのまま地面を見やると、バラバラに千切れた薔薇の花枝が辺り一面に落ちていた。
「ひどい……」
あんなに美しく咲いていた薔薇だったのに……
あの竜巻でこんなになってしまったなんて、酷すぎる。
先程の男性の声がもう一度私に問うた。
「……君、大丈夫か?」
いつもお読みいただきどうもありがとうございます!
フェリカの『抱擁』は、第1話のラスト後ろから3段落目で本人が語っていますwのでお時間のある方は覗いてみてください(#^^#)
次回【第47話】助けてくれたのは
24日は昼12時代に投稿します。
読者のみなさーん、この作品はハイファンタジーですが、今週は物語の展開の都合上w異世恋SPです(^▽^)/













