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【44】人気俳優アクティス・レジェ―ロの魅力

「実は私、俳優のアクティス・レジェ―ロの大ファンで! ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、彼の素顔ってどんな人!?」


 ……あー、そういうこと。


 この真っ白スーツの気障男さんは、私に興味があったわけじゃあ無かったのね。

 

 そうとわかると不思議なもので、ご遠慮しようと思ってた人なのに、なんだかちょっとショックだったわ。

 アクティスのファンなら無下にもできないわよね。私は気障男さんの話に少しお付き合いして、アクティスの性格の優しい所とかをちらほらお喋りした。


 そしてグラスを空にして、


「あら、ちょっと飲み物を……。それでは」


 と、その場を笑顔で失礼したわ。


 そうそう、さっき私の気になっていた人! あの人まだいるかしら……?

 私はその男性が立っていた奥の方を首を伸ばして探してみたの。

 

 ああ、いたわ! 

 

 あら…でも……残念。私が気障男さんと話している間に、もう別の女性と談笑していた。

 ああ、さっき声をかけられれば良かったのにな……タイミング逃しちゃったわ。

 私はちょっとがっかりしながら、次の飲み物を取りに行って、どれにしようかと選んでいたら、人当たりの良さそうなにこやかな男性に声をかけられた。


「あの、フィー様ですよね? よかったら僕とお話しませんか?」


 私、人当たりの良い感じっていいなと思うのよね。だからこの方とちょっとお話してみることにしたわ。


「ところで、フィー様はレジェ―ロ氏の友人とお聞きしましたけれど」


「ええ、そうですの」


「フィー様はご学友なんですか?」


 私が頷くと、人当たり良い男性は質問した。


「レジェ―ロ氏って学生時代はどんな? やっぱり当時から歌劇が好きだったとか?」


「……えーと…」


 ――なんだか、嫌な予感がする。


「いやあ、実は僕ファンなんですよ。彼の昔の話、聞きたいなあって」


 ここにも彼のファンが!

 女性だけでなく男性にもファンが多いのが意外だったけど。

 学生時代のアクティスの話は、ファンという彼の夢を壊しかねなかったので、私は適当に良いことだけお話したわ。そしてグラスを空にした私は、次の飲み物を取りに行くために失礼した。


 そうしたら今度は、アメリよりもう少し年下の可愛い女子グループに声をかけれたの。


「フィー様、ちょっとお話よろしいですか? あの、私たち、アクティス・レジェ―ロが大好きなんですけどぉ」


 女の子たちは既に目をハートにして、私から彼の話を聞きだそうとかなり期待していたわ。まだ夢のある可愛いお嬢さんたちだもの、やっぱり少し話には付き合ってあげたいじゃない? 

 といっても、アクティスのことをあれこれ話すことはできなかった。だって私も王女ってばれちゃうし。だから先ほどの男性たち同様、当たり障りのない程度の話を彼女たちにした。

 私からアクティスの話をたっぷり聞きたかったお嬢さんたちは、がっかりしていたけど……。


「ちょっと飲み物を」


 私は彼女たちと別れると、気になる男性が立っていた辺りに来てみたわ。

 けれど男性の姿は、もう見当たらなかった。

 さっきはまあまあ遠目だったから、私も彼の全体の雰囲気しかわからなかったし、探し出せないのかもしれないけど……

 それにその彼は、もしかしたらあの女性とどこかで話し込んでいるのかもしれないわよね。

 

 きっとご縁が無かったのね。――仕方ないわ。

 これだけ男性が沢山いるんだもの、また別のイイ感じの人を探せばいいのだわ。

 と思ったのだけど――

 

 私はそのあと何人もの男女に次々に話かけられてしまった。そして皆が皆、私じゃなくて、『時の人アクティス』に関心がある人ばかりだった。


 ――私はその人たちと話しながら、次第にわかってしまったのだ。

『人気俳優アクティス・レジェ―ロに紹介される』という()()()()


 アクティスはもちろん親切で私を紹介してくれたんだけど……。

 人々は私からアクティスの話をもっと聞きたかっただけで。


 『婚活相手』として、私を見てはくれなかったのだ!


 ――自分で答えを見つけてしまった私は、金槌で頭を殴られたようなショックだった。 

 

 ちょ、ちょっと待ってよお……?

 私、こんな風になるなんて、ぜんぜん予想だにしてなかったわよ……!?

 

 私の頭の中で、『大誤算!』という文字がぐるぐると駆け巡った。 



 心の中で、一人がっくりと膝をつき、うな垂れる……。

 私、この婚活パーティに賭けてたのになあ……。うぐぐ……。



 ショックで落ち込み、呆然と壁にもたれていたら、オーケストラが『ロミオと鏡のジュリエット王女』の歌曲を奏で始めた。

 談笑していた人々がすうっと波が引くように静かになる。余興が始まったのだ。

 今日の婚活は前途多難だったけど、それはそれ、私もアクティスの余興を楽しみにしていたの。

 人が随分集まっていたけれど、前列の一番端がまだ空いていたので、私はそこを確保することができたわ。


 ああ確かこの曲は、ジュリエット王女と初めて会ったときのテーマだったわね。

 オーケストラの前にアクティスが、劇中と同じように走って登場する。

 客の注目を浴びたアクティスは朗らかに歌い始めたわ。皆が彼の表情ある声に惹き込まれていく――

 アクティスは台詞を絡めながら、二人の愛のテーマや、運命に引き裂かれる場面、ラストの祝福の歌を次々と披露した。

 終わったときには鳴りやまない拍手が起こって、アンコールも飛び出すほど大成功の余興になった。

 私も拍手を惜しみなく贈った。


 そうしたら胸が熱くなって、なんだか涙が溢れてきちゃったの。

 アクティスが大好きだった歌劇の世界で、何年も努力を積み重ねて、人の心を(つか)んで離さない、こんな素敵な歌劇俳優になっているなんて! 

 友人として誇らしい気持ちにもなった。


 アクティスは泣き顔で拍手をしている私と目が合うと一瞬驚いて、素顔の彼の表情で嬉しそうに笑った。

 そしてすぐに役者の顔に戻ると、最後に観客に向かい深々と一礼をしたのだった。






いつもお読みいただき、どうもありがとうございます。


この物語が少しでも良かったな、続きが読みたいな等と感じましたら、ブックマーク、★、感想で応援よろしくお願いします。執筆の励みになります(^^)/


次回【第45話】心の霧


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[良い点] 感激の涙に咽ぶフェリカとは違い、その鈍チン姫ぶりに哀哭の涙を流さねばならない読者の心情が如何ばかりだったか、察して余りあるものがあります。(大袈裟男爵登場) 学生時代に貸し与えたノートの恩…
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