【42】エルムとその父ヤトキン その2
「私のエメラルドはね、特別なのよ。このネックレスとイヤリングと、ほら、この髪留めを見て? これ珍しい装飾でしょう? ふふ、トゥステリア王国の王宮に献上した職人の細工なのよ? お父様がエメラルドの原石を買って、それを使って特別にセットで作らせたの。私のためのオリジナルデザインなのよ? すごいでしょう?」
ふふんと鼻を鳴らして、エルムは私にアクセサリーを見せびらかしながら朗々と自慢した。
アクティスは、笑いを噛み殺して肩を震わせている。
エルムは目の前で自慢する相手が、まさかトゥステリアの王女とは思ってもいないでしょうね。さすがにヤトキンは微妙な表情で娘を見守っていたわ。
そうそう、トゥステリアは装飾品のデザインが洒落ていることで有名で、職人も繊細な技術を持っていてね、諸外国の女子の憧れを集めているのよ。
改めて、私はエルムの装飾品をよく見たわ。
この細工、どこかで見たことがあると思っていたのよ!
この独創的な感じは絶対ウィーノの作品だわ。
「まあ本当に素敵ですわね。やはりトゥステリア王国の装飾品は美しいですわ。特にこれを制作したウィーノは、個性的で大胆なデザインを得意としている作家ですの。ですから、エルムさんのエメラルドをより引き立たせているのでしょうね」
「は?」
今度はエルムが眉を顰めた。
「何言ってんの? 知った風なこと言っちゃって!」
魅力を褒めたつもりだったんだけど、なんだか強い口調が返ってきてしまったわ。
ちょうど、向こうの方からエルムを見つけた女子のグループが「エルム様~」と声をかけていた。
「ウィーノの作品は本当に素敵ですわ、ぜひエルムさんのお友達にも今のお話をなさって? 彼の作品の魅力を伝えて頂きたいわ」
エルムがあのお友達にもアクセサリーの話をしてくれたら、ウィーノやトゥステリア王国の装飾品業界にとっていい宣伝になると思ったのだけど……なんだか、余計なことを言ったようで、エルムはますますイライラして険しい顔をした。
それでもアクティスには一転して頬を緩めた可愛い笑顔を作る。
「……じゃあ殿下、またあとでねっ」
そう挨拶して、エルムは女友達のグループへと混ざりに行った。
ヤトキンは娘をにこにこと見届けて、
「我儘娘でして……ご容赦ください」
と私たちに軽く一礼すると、次の来場者に挨拶をしに行った。
「……なんか、大変なお嬢さんなのね」
私は二人の後ろ姿を見ながら、アクティスにそっと囁いた。
「はぁ、……あとで相手をする僕の気持ち、わかってくれるよね?」
溜め息をつくアクティスに同情して、背中を叩いて励ましたわ。
ちょうど飲み物を持った給仕が私たちの傍にきたので、勧めてくれた奇麗な緑色のカクテルを手にしたわ。隣でアクティスは歌うからと、水のグラスを選んでいた。
緑。
そうだ、アクティスの推し色は緑よね。
私は前から気になっていたことをアクティスに尋ねた。
「ねえアクティス。そういえば『推し色』って何?」
「ああ、ファンの子から始まったんだけどね、役者それぞれにイメージカラーをつけて楽しむのさ。僕は緑、スピアはピンク、ミカは黄色。それを身につけることがファンのステータスになってるみたいだね。最近じゃあ、劇場でも推し色商品を売ってるよ。僕が良く使ってるカードあるよね? あれもそうだよ」
「面白いことしてるのねえ。劇場もファンの気持ちを掴んでしっかり商売してるのね」
「マルコスはああ見えて、商売上手なのさ」
そんな話をしていると、パーティのお客が一人、また一人と私たちの傍にやってきた。
皆、大人気俳優アクティスに興味津々だったのだ。
「握手してください!」
「劇場、観に行きましたよ」
「私、大ファンです!」
「サインもらってもいいかな?」
あっという間に人だかりができてしまったわ。
私、完全にお邪魔だわ……と思って失礼しようとしたら、アクティスが私の背中を軽くホールドして行かせてくれなかった。
「お願いだからここにいて、フィー。君を紹介するから」
アクティスが小声で私を引き留めた。
集まった者の一人が、隣にいる私に興味津々で、アクティスに質問した。
「アクティスさん、こちらの女性は?」
「すごく奇麗な方! 女優さん?」
「妹?」
「もしかして恋人?」
「結婚するとか?!」
口々に尋ねる質問が勝手に盛り上がって、集まった人たちから歓声が上がる。
その声を遮るように、お道化た様子で手を大きく動かしながらアクティスが言って見せた。
「残念ながら、彼女の探し人は僕では無いのです!……ああ、ぼくも彼女が恋人だったらどんなにいいかと!」
まるで舞台で『演じて』いるかのような台詞回しのアクティスに、皆の目が嬉しそうに彼に集まる。
「彼女、とても素適な人でしょう?」
アクティスは自分に私を引き寄せて、皆に紹介する。
「彼女は、僕の同郷の……大切な友人なんです」
私は、集まった人々を見渡すと軽くカーテシーをして、とっておきの笑顔で微笑んで見せた。
「アクティスの友人のフィーと申します。以後、お見知りおきを」
集まった人々の私を見る目が優しくなる。
アクティスは人々が集まったら、自然に私に関心が行くと計算していたのだろう。その時にうまく私を紹介すれば、皆が私を好意的に受け入れてくれると考えたのだ。こうやって紹介されたのなら、初対面の人とも話しやすくなるし、名乗っても避けられるなんて失礼なことは起こらないだろう。
アクティス、ホントにありがとう!
私、きっと今日誰かを見つけられそうな気がする!
学生時代、テストの時にノートを貸してあげた恩が、こうやって返ってくるとは! あの時貸してあげて良かったと心の底から思ったわ。
「のちほど、『ロミオ王子と鏡のジュリエット王女』の一部を演じますので、お楽しみいただきますよう。どうか皆様、それまでご自由にご歓談ください」
アクティスはそう言ってこの場を閉めた。
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次回【第43話】さあ婚活本番!
頑張れ、フェリカ!













