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【40】婚活パーティのはじまり

 豪商ヤトキンの館は、まるで貴族のような大層立派な大豪邸だった。

 これだけのものを作れるなんて、その財力に驚いたわ。さすがカルド国で一番の商人ね。


 馬車を屋敷の厩役(マーシャル)に預けた我々一行は、ヤトキン邸の侍女に案内されて、屋敷の奥へと通された。

 侍女は館のすばらしさを伝えるように主人から申し付けられているのか、お屋敷に飾られている絵画や彫刻について私たちに話してくれたのだけど、作品の解説というよりはどこで買い付けたとか、価格はいくらだったかとか、そういう話ばかりだったの。……だから、正直げんなりしちゃったわ。

 唯一聞いて良かった話は、庭園の噴水とその奥の薔薇園のこと。世界中から集めた薔薇が、ちょうど真っ盛りなのだそう。


 そして私はアメリと用意された部屋で仕上げの身支度を整えると、従者用の控室に向かうアメリ、ジオツキー、ブロディンとは別れて(こういうパーティ会場では当然警備は万全なの)、いよいよアクティスにエスコートされてパーティ会場へ向かったわ。


 広いホールに踏み込むと、すでに多くの男女で賑わっていた。

 小さな声で言わせてもらうけど、今まで私はいくつもの婚活パーティに出席してきたけれどね、今日のパーティは規模が違ったわ。まるで王宮主催のパーティのようにとても沢山の人が参加していたの。

 女性たちは一人で参加している者もいたけれど、大抵は父や兄といった身近な男性にエスコートされて参加していた。皆、自分を魅力的に見せるために色とりどりに美しく着飾っていたわ。

 私の予想通り、皆さんカラードレスが多いわね。

 ということは、私の淡いクリーム色に鮮やかな刺繍のドレスはちょっと目を引くかも……?

 そんな私の作戦が功を奏したのか、アクティスと私がホールに入ったときから、人々の視線がこちらに向けられていた。


 やっぱりこのドレスにして、正解だったかも! 

 ちょっと注目も浴びているようだし、なんだか今日のパーティ、うまく行く気がしてきたわっ!


 嬉しくなった私は心に余裕が出てきちゃって、視線を送ってくる皆さんの顔をゆっくり見渡した。

 

 ……あら?


 皆さんの視線の先は、私のドレスじゃなくって……

 私の隣の、大人気俳優アクティス・レジェ―ロを追っていたのだった。


 あはっ、ま、まあ、そ、それはそうよね? 

 や、やだわ、恥ずかしいっ……。私ったら、自分のドレス選びにちょっとうぬぼれちゃってた……。 


 自分の熱くなった顔を手で仰ぎながら、私も思わず皆さんの視線の先の張本人、アクティスを見上げたのだけど……。

 そこにいたのは、さっきまで廊下で私と歩いていたアクティスではなかったわ。

 

 私の隣の彼は、『俳優アクティス・レジェ―ロ』のオーラを漂わせて立っていた。


 ――――これは皆さん、見てしまうわよね。


 思わず、私は感心しちゃったわ。


 そんなアクティスを見て、私も慌ててせめてもと王女オーラを少し(まと)わせてみた。私には華なんか無いから、華やかなアクティスに申し訳なかったわ。


「アクティス・レジェ―ロが来てるわ!」

「今夜のゲストかな?」

「ねえ見て、ホンモノよ」

「やっぱりカッコイイわね!」

「思ったよりイイ男だな」

「きゃ~、私あとでお話しに行こうっ」


 そんな声があちこちから聞こえてきたわ。

 アクティスも会場全体を見渡しながら、あの笑顔で応えていた。


「殿下! 嬉しいっ! 来てくれたのね?」

 

 背後から嬉しそうな声が飛んできて、アクティスと私が振り返ると、そこには頬を桜色に染めたエルムが立っていた。走ってきたのか、息が弾んでいる。

 エルムはレースをふんだんに使った真っ赤なドレスで、デコルテには、昨日と同じエメラルドのネックレスを身に着けていた。そのエルムの後から、今夜のホストであるヤトキンが娘を追いかけて足早にやって来る。

 澄んだ空色の瞳が、アクティスを目の前にさらに輝いている。

 エルムは興奮してお喋りする。


「きゃあ殿下! 今日の装いは殿下の緑色なのね、ステキよ。ねえねえ見て? 私、今日も推し色のエメラルドをつけてるの。やっぱりあなたと過ごすんですもの、同じ色がいいでしょう? 昨日お話ししたエスコート楽しみに待ってたの! そのためにあなたを余興に頼んだのよ?」


「エルム、まずお二人にご挨拶が先じゃないか」


 後ろからたしなめる父ヤトキンの言葉など、エルムは耳に届いていないようだったわ。

 もっとも、ヤトキン氏も娘が可愛いのか、口では挨拶を促しているけれど、微笑ましく娘を見守っていたわ。


 アクティスの返事も待たずに、彼の手を取ろうとしたエルムは、その反対の手がもう他の女性の手を支えていることに初めて気が付いた。

 やっと私を視界に入れたエルムが、目を見張った。


「昨日の!!」

 

 エルムは私の顔をじろじろと遠慮なく見て、とても驚いていたわ。

 そして、みるみる不快感を顕わにした。

 もちろん私はエルムの表情に気が付かないふりをして、客人として主催者である娘のエルムに挨拶をした。


「本日は私もパーティに参加させていただきますわね。改めまして、アクティスの友人で、トゥステリアのフィーと申します」


 パーティを仕切っているエルムの父ヤトキン氏には私が王女だって知らせているけど、おそらく娘は参加者については把握していないはず。

 だから私はフィーと名乗っておいたわ。

 フェリカと正式な名前を名乗るのは、この婚活パーティで特別に親しくなった男性だけで十分よね。

 ……と言っても、私が正式な名前を言った途端、大抵の男性は『釣書姫』を恐れて逃げちゃうのよねぇ……


 でも! 

 今日はアクティスにエスコートされているから、そんなに忌み嫌われず、失礼な目には合わない気がするわ。


「ヤトキン嬢、申し訳ないけれど」


 アクティスが、エルムのエスコートをやんわりと断る。


「以前からの約束でフィーをエスコートしているんだ」


「えっ、昨日お話ししたのにい!」


 エルムは唇を噛むと、上目遣いに私をキッと睨んだ。







いつもお読みいただきありがとうございます。


次回【第41話】エルムとその父ヤトキン


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