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【4】モテる男たち その2

 数日前に、私が急にこの歌劇を見たいと言い出したので、ジオツキーは不思議に思っていたのだろう。


「フィー様はどうしてこの歌劇が見たかったので?」


 ジオツキーが尋ねた時だった。

 私より十歳以上は年上の淑女がこちらのテーブルにやってくると、ジオツキーの目の前にカードをすっと置き、ジオツキーだけに笑顔を向けると、そのまま喫茶室を出て行った。


 ブロデインが警護のために私を(かば)おうと少し身構えたが、すぐにその必要がないとわかり体勢を戻す。


「なんだ、あれ?」


 私もアメリもブロディンと同じく、意味がわからず三人で顏を見合わせていると、また別の淑女が私たちのテーブルの横を通りながらカードを置くと、立ち去って行った。淑女はちらりと振り返って微笑みかけたが、思った通り私たちにではなく、視線の先はジオツキーだった。


「ジオツキー、……違うとは思うけど、もしかして知り合いなの?」


「そんなわけないでしょう」


 私の質問食い気味に、べしっと返事が返って来た。

 そう言っている傍からまた別の女性が来て同じようにカードを置いていく。ジオツキーは女性たちを見ようともしないし、カードに触れようともしなかった。

 競うように女性たちがテーブルの横を歩き、さりげなくカードが置かれていき……、テーブルの上にはカードが十枚以上は溜まってしまったわ。


「いったいどういうことなの!?」


 私はジオツキーに問いかけた。

 ジオツキーは何も答えず、切れ長の目をさらに細めて、面倒くさそうな表情を返してきた。 

 ううっ。こういう時のジオツキーは、何を聞いても絶対に返事をしてくれないのだ。

 好奇心旺盛のアメリがジオツキーの代わりにカードに手を伸ばそうとすると、ブロディンがそれを制止した。

 何か危険なことがあるといけないからだろう。ブロディンは呪文を唱えて、掌をカードに向けたが、特に何の反応もなかった。

 

 そうそう。ブロディンは私と同じく、中~上級程度の魔力保持者なの。だからカードの安全性を確かめてくれたのよ。ちなみにアメリは低~中級程度の生活魔法が得意でね、渦中の人ジオツキーには全く魔力は無いのだそうだ。

 触っていいとブロディンがアメリに合図すると、アメリはカードを持ち上げて、何枚かをひっくり返した。


「きゃあ、これスゴイですっ!」


 アメリは団栗眼をさらに大きく見張ると、真っ赤になって私にカードを見せてきた。


「なにこれ!?」


 カードに書かれた文字を見て、私も真っ赤になって驚いちゃったわ。

 カードには女性たちの名前と連絡先が書かれていたのよ。


「色男は大変だな」


 ブロディンがジオツキーに、にやにや笑いかける。

 それを聞いたジオツキーが氷の様な鋭い目でブロディンを刺すと、軽口をたたいたブロディンはマズイと黙り込んだ。


「アメリ、それ捨てておけ」


 ジオツキーがなんの感情も含まない声でアメリに命じた。


「えっ? 私が!? い、嫌ですよぉ。ジオツキー宛てなんですよ?」


 アメリは握ったカードをジオツキーに渡そうとしたり、私やブロディンに押し付けようとしたが、私たちが受け取るはずもない。

 あんなもの渡されたら困っちゃうわよね? 絶対、受け取れないわ。


(ごめんっ、アメリ! それ、なんとかしといてね?)


 私はアメリに心の中で頼み込んだ。

 アメリは誰も受け取らなかったので渋々(あきら)めると、私たちを上目遣いで(にら)みながら、バッグにカードをしまいこんだ。


「なんで私が、こんな役……。三人とも私より年上のくせにぃ!こんなこと十八歳の乙女にさせることですかぁ?」


 口を(とが)らせてブツブツ恨みがましく言っているアメリを無視して、ジオツキーは私に話しかけてきた。


「フィー様、よくこの歌劇のチケットを確保できましたね。どうやって取ったんです?」


 ジオツキーは私が四人分のチケットをどのように取ったかを知りたがる。

 そうよね、即完売の歌劇なんだもの。

 そもそもここカルド国のアルマンで、この歌劇を見る予定にはしていなかったのだ。三日ほど前、ここに来る途中で立ち寄った宿駅(馬車旅の休憩所)で、この歌劇のポスターが掲示されていたの。それで、私は急遽チケットを手配したのよ。

 もし私が正攻法――トゥステリア王家を通してチケットを取ったのなら、当然私たちは貴賓室で観劇となったのよね。でも私はフェリカ王女の名前で劇場の観客に好奇の目で見られるのが嫌だったの。だから別ルートでチケットを確保したのだ。


「大人気の歌劇のチケットが四人分もすぐ取れるとは思いませんよ。末席とはいえ並びの席ですし。いったいどんな方法を使ったんです?」


「……学生時代の、同級生に頼んだのよ」


 私は周りに聞こえないようにヒソヒソ声で答えた。


「ご友人がカルド国に住んでいるんですか?」

とジオツキー。


「住んでいるといえばそうなんだけど、この歌劇場で、……うーん、働いているっていうか」


「ここで働いて……? お嬢の友人はトゥステリア王国の貴族だよな?」

とブロデイン。


「役者をしているのよ」


 私は一層声を低くした。


「貴族の友人が?」


 ブロディンは驚きを隠せない。


「フィー様、今日の出演者にいますぅ? 」


 アメリは出演者に知り合いがいると聞いて、好奇心いっぱいにパンフレットをめくって私に見せた。


「あら、アメリ。いつの間にパンフレットを買ったの?」


「喫茶室の席押さえる前に、ちゃちゃっと買っちゃいましたぁ! だってロミオ役のアクティス殿下が素敵なんですもん」


 さすがアメリ、相変わらずこういうことには素早いのよね。

 アメリが開いたパンフレットには、役名と役者名の書いた肖像が並んでいた。


「フィー様、役者さんの名前は何ですかぁ?」


 私は深く頷いて、小さい声で、()()アメリに言い聞かせるように(ささや)いた。


「いい? 絶対、驚かないで静かにしていてね?」 


 アメリが私を見て、目をしっかり合わせると、コクリと力強く頷いた。

 うん、私とアメリの仲だ。

 アメリの眼が『信じて、フェリカ様!』って言ってたわ。

 私はアメリをもちろん信用した。

 私は、囁き声で伝えたわ。


「あのね、友人の名前は、――アクティス・レジェーロよ」


 それを聞いたアメリは。


「うっそおおおおおおおおお!!!!」


 驚きすぎたアメリの声に、周囲の人が一斉に振り返った。

 

 もう、だから静かにしててねってば!! 

 アメリったら、信用してたのにぃ! 



第4話をお読みくださってどうもありがとうございます。


もし少しでも面白かったな、続きが気になるな、などと思われましたら、

ブックマーク、★、感想で応援いただけましたら、嬉しく思います。


【第5話】面会許可のコツ 

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