【38】いざ大婚活パーティへ
あれから結局、強い雨がずっと振り続いたので、魔道具屋に行くことは諦めざるを得なかった。
昨日の二人の悪漢は、魔術を使う男にその場で雇われただけの者だったので、詳しいことはわからずじまいだったわ。
いろいろ気になることはあるのだけれど……
でも。
今日はね、私がカルド国アルマンに来たそもそもの目的、大婚活パーティが開催されるのよ!!
だからアメリも私も、朝からかなり気合が入っていた。
私は午前中から、香油の入ったお風呂でまずお肌を磨いたわ。そのあと、しっとりさせるために全身に保湿クリームをのせて、つやつやの肌を作る。
腕の調子はもうだいぶよかったので包帯は巻かずに済むことになったけど、アメリからは、
「決して無理はしないでくださいよ?」
と念押しされてしまったわ。
雨は、幸いなことに午前中で上がって、私はほっとしたわ。
今日のパーティは、とても大勢の人が集まるらしいの。貴族だけじゃなくて、実業家も参加するらしいし、他国からも参加者がいるらしいのよ(私みたいにね)。こんな大きなパーティは滅多にないし、とにかく大チャンスだから、絶対お相手をゲットしたいのよね。
雨が上がったということは、何かいいことが起きそうな気がしない?
さて、今日の私の勝負ドレスは、お気に入りの一枚。
デコルテ部分の肌はあくまで控えめに。トップスからスカートの裾までは、淡いクリーム色のシルクサテンとレースが幾重にも重なりあっていてね、百合の花を伏せたようなフレヤーラインが美しいドレスなの。サテン生地全体は東方の国のエキゾチックな刺繍で彩られているの。
こういうパーティって、みんな目立ちたいから色味のはっきりしたドレスを選んでくるのだけど、そこをあえて淡いクリーム色のドレスと目を引く刺繍で勝負するのが、私の作戦よ。
髪はアップにまとめるけど、耳周りの髪はわざと遊ばせて、柔らかさをアピールする。
アメリが言うには、髪をまとめすぎると、私の気が強いところが目立っちゃうんですって。だから『ゆるふわ』がいいらしいの。
最後に、髪をリボンで飾る。刺繍の色を意識して朱のリボンで仕上げたわ。
宿の部屋まで迎えに来たアクティスは私を見ると、何も言わずにじっと見いっていた。
普段はこんなに飾り立てていないから、ちょっと変な感じがしたかもしれないわね。
「フェリカ! ……驚いたよ。いつも綺麗だけど、今日は一段と美しいよ!」
「……まったくもう」
「いや本当だよ? うん、今日は男冥利に尽きるな」
アクティスは腕組みをして嬉しそうに微笑む。
そういうアクティスは、余興として招待されているからだろう、華やかな衣装に身を包んでいた。
ダークグリーンの燕尾服は金糸で飾られており、クラバットの端にはレース、ヴェストは黒地に品の良い花模様、燕尾服の胸ポケットには洒落た赤いハンカチーフが差し込まれていた。
「殿下も今日はロミオ王子様風で素敵ですっ」
アメリが感激して、目がハートになる。
「よくわかったねアメリちゃん! ロミオ王子に寄せてみたのさ。余興では、歌劇の一部分を演じるつもりなんだ。そういうアメリちゃんも今日は可愛いね? すごく似合ってる」
「あ、ありがとうございますっ!」
アメリは真っ赤になって、照れている。
そうなの。今日はアメリもパフスリーブにたっぷり布を使った、花柄ピンクのグラデーションが美しい、シフォンドレスを着ているの。私が選んだのだけど、アメリったらすっごく可愛いの。
そしてこれ、今トゥステリア王国で大人気の型のドレスなの。アメリはパーティの間、従者部屋で控えているので、もし他の侍女たちがこのドレスに目を付けてくれたらトゥステリアの服飾産業が潤うかもしれないでしょう? なのでそういう作戦もあるのよ。
準備が整うと、アクティスは徐にロミオ王子がジュリエット王女に愛を誓った時のように跪ずくと、胸に手を当てながら私たちに申し出た。
「それでは参りましょうか? お嬢様方!」
アメリと私は顔を見合わせてにっこり微笑んだ。アメリの団栗眼がキラキラしている。
私たちはジュリエット王女の気分で、おしとやかな声を出した。
「「ええ、よろしくお願いするわね、殿下」」
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次話【第39話】アクティスとレジェ―ロ伯爵
17日11時代に投稿します。













