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【37】襲来 その2

 ブロディンは奥の人影の方へと走った。

 マントを羽織った男が立っている。

 その男が指を突き出すと指先から青白い灯が繰り出された。それはそのまま、ブロディンへと放たれる。


「魔術使いが!」


 ブロデインは対抗するため光る矢をマント男へと投じた。矢はバチンと派手な音を立てて、青白い灯を粉砕した。


「強くはねぇな」


 魔術の攻撃力の強さは、込められた魔力の大きさに比例する。

 よってブロディンの矢が男の灯を粉砕したということは、相手が弱いことを示していた。

 それでもマント男は次々と青白い灯を放ってきた。質より量というわけだ。

 ブロデインは灯それぞれに光の矢を放った。

 自分の光の矢は必ず敵の灯を粉砕するのだが、ちょこまかと対応しなくてはならず、イラっとさせられる。


「ああっ、面倒くせぇ!」


 そう叫んだブロディンは、身の丈ほどの大きな光の矢を作り出すと、相手に向かって振りかぶって一投した。

 ブロディンの大きな一矢が、夜の闇を裂くように飛んでいく。

 その明るさで照らされた建物たちの影が、石畳の上をくっきりと動く。

 ブロディンのその一矢によって、マント男の青白い灯は次々に巻き込まれては砕け散り、全て消失した。

 それを見て勝ち目がないと悟ったのだろう。マント男は逃げ出して、元来た横道にさっと身を隠した。

 ブロディンが全速力で、男が立っていた位置に辿り着く。

 男の入った横道を追ってはみたが、まんまと逃げおおせたようで、もうその姿を見つけることはできなかった。



 *



 窓硝子が木端微塵(こっぱみじん)に割れて、アメリと私は全身に細かい硝子を浴びていた。


「フェリカ様っ!」


 アメリが私を心配して()かさず叫ぶ。


「大丈夫、保護魔術かけてあるから」


 それでも心配なアメリは私の顔を下から見上げる。


「お怪我は無いです?! ああ、お顔も……無事でよかったぁ! パーティ、明日なんですからね?」


 そうなのよ、明日が婚活パーティだもの! 私もまずそれを考えちゃったわよ。


「アメリも大丈夫?! ああ無事でよかったわ!」


「フェリカ様が庇ってくださったからですよぉ」


 アメリもなんともなくて、本当にほっとしたわ。

 保護魔術で守られているとはいえ、アメリも私も硝子まみれ、座席にも足元にも粉々の硝子が飛び散っていた。少しでも動いたら、すぐに怪我をしそうだったわ。


「フェリカ様、じっとして。ちょっと待っててくださいね?」


 生活魔法の熟練者アメリが、魔術であっという間に体に付着したガラスを綺麗に拭ってくれた。そして馬車の中も硝子の欠片をひとつ残さず、取り去ってくれた。

 全てが片付いたころ、ブロディンが戻ってきた。


「小者だが、魔術使いが逃げやがった」


 肩で息をしながら、ブロディンが悔しそうに報告する。

 馬の様子を見てから戻って来たジオツキーは、珍しく怒りを(あら)わにしていた。


「他二人は気絶。……それと馬の様子が変です」


 私たちは雨の降る中、馬の様子を見に行ったわ。

 特段に変わりは無いようで、馬たちは大人しくしていた。


「どこが……? いい子にしてるじゃないの」


「目が違うんですよ。焦点が合っていません」


「そう言われてみれば……」


 確かに目がとろんとしていた。馬たちも何か変だと気が付いているのだろう。様子を伺おうと耳をくるくる動かしていたけれど、なんだか動きが緩慢だったの。

 でも私たちが見守っていると、すぐに本来の馬の動きを取り戻していった。


「きっと何かされたんでしょう」


 雨の中ジオツキーが馬の首をさすりながら、気絶した男たちを憎々しげに一(べつ)した。



「やはり、息の根を止めておくべきでした」





 *



 気絶した二人を吐かせるというブロディンを残して、私たち三人は先に宿へと帰ることにした。 

 硝子が無くなった窓には、魔術で結界を張っておいたわ。大げさだけど、これが外も見えるし雨も入らないし丁度よかったのよね。


「アルマンは治安が悪いから……強盗かしらね?」


「もしかしてクイーンってことないですかぁ?」


 アメリがクイーンの仕業かと疑った。


「まさか! ここ、劇場じゃないのよ? 私たち舞台に出演もしてないし。カードだって来ていないでしょ?」


「そうですけどぉ」


 アメリは不満げに口を尖らせた。


「フェリカ様ぁ、前から不思議なんですけど、どうしてクイーンって、あんなことをするんでしょう? 出演者に何か恨みでもあるんですかねぇ?」


「何故なのかしら……。クイーンのことはわからないことだらけよ。明日の魔道具屋でクイーンの手がかりがつかめれば、何かわかるかしらね?」


 雨脚が、更に強くなってきた。

 馬車に打ち付ける雨の強さが、明日の魔道具屋行きが難しいと告げていた。

 私は容赦なく鳴る雨音を耳にしていたら、なんだか気弱になってきてしまったの。


「ねえアメリ、雨もこんなに降ってきちゃったし、魔道具屋は見送りよね? 私、やっぱり幸先(さいさき)悪いのかしら。強盗にも襲われちゃったし、クイーンの手がかりもまだ見つけられないし、私の婚活パーティでのお相手探しも、……ホントに見つかるのかしらねえ……? ねえアメリ、大丈夫かしら?」


 アメリはいつもこんなとき、『大丈夫ですよぉ、フェリカ様ぁ!』って励ましてくれる。

 その声を聞きたくて、私はアメリに訊いてみた。


「えっ?……はぁ…そうですよねぇ……、お相手探しですよねぇ……。エ、エヘヘッ!」


 アメリは否定はせずに言葉を濁して、私と目だけ合わすと苦笑いで返してきた。



 ねえアメリ。

 こういう時こそ、嘘でもいいからいつもの調子で、


『大丈夫ですよぉ』


 と言って欲しいんだけどなあ。








いつもお読みいただきどうもありがとうございます!


この物語が少しでも面白いな、続きが読みたいなと思われましたら、ブックマーク、★、感想での応援をいただけますと執筆の励みになり嬉しいです(^^)/


次話【第38話】いざ大婚活パーティへ

フェリカは本命の婚活パーティへいよいよ、というかやっとw出発します!

本日13時代に投稿予定です。


なお【第39話】は17日の11時代に投稿予定です。

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