【34】豪商ヤトキンの娘 その2
「嫌だあ、ジュリエット王女じゃない。私が殿下と話してるのにぃ、もう!」
エルムは可愛らしい顔を露骨に曇らせる。
「せっかく私ここまで来たんだから、殿下、もう少しお話しない? 明日の余興は何をしてくれるの? 私に聞かせて?」
エルムの失礼な態度に、私は心配になってスピアの表情をちらりと見た。
ファンの女の子にはよくあることなのか、スピアは慣れた様子で嫌な顔一つしなかったわ。それにファンであり出資者の娘でもあるエルムには気持ちよく帰ってもらわないと、と思ったのかもしれないわね。
スピアはそれ以上アクティスに声をかけるのを止めて、軽く会釈すると自分の楽屋に戻って行った。
アクティスはスピアが引き下がったので、困ってマルコスをちらりと見た。でもマルコスが出資者の娘に何か言うわけも無いじゃない?
アクティスはすっとエルムから離れると、少し離れたところにいた私の傍に来た。
「申し訳ないけれど、ミス・ヤトキン。僕は彼女と5年ぶりの再会をしたところでね、積もる話もあるので今日は失礼します。明日、パーティ会場でお会いしましょう」
エルムが可愛い顔を引きつらせると、凄い形相で私を睨んだ。
でもすぐにアクティスに向けて笑顔を作ると、両手を組んでお願いポーズを取った。
「殿下、せっかく私来たのよ? ねえ、いいでしょう?」
「明日、パーティ会場でお会いできますから。では失礼、ミス・ヤトキン」
別れを告げながらアクティスが劇中のロミオ王子の礼をすると、エルムは顔を赤らめて、満足気に微笑んだ。
「うふふ、そうね! それがいいわ! じゃあ明日ゆっくりお話しさせてね? 私をエスコートしてくれるわよね? 明日ね、待ってるわ!」
と喋り続けているエルムにはもう関わらず、くるりと背を向けると、アクティスは私を伴って自分の楽屋へと歩き出した。
「大丈夫なの? もうちょっとお相手してさしあげたほうがいいんじゃないの?」
「馬鹿言わないでよ、フィー。楽屋にでもついてこられたらさ、ああいう子は有ること無いこと吹聴するよ?」
「そういうものなのね……。でも明日、お相手することになっちゃったわよ?」
「僕は話をするとは言ってないよ? 会うとは言ったけどさ」
私たちが小声でそうやりとりしながら個室のある楽屋奥へ歩いて行くと、先に自分の楽屋に行ったはずのスピアが、青白い強張った表情で戻ってきた。
「これ、……これを見て……!」
スピアは私たちに震える手を差し出した。
その手にはあのカードが握られている。
『親愛なるスピア様へ クイーン』
カードには、そう書かれていた、
「スピアさん! これ、どうしたんですか!?」
「私の楽屋のドアに、挟まっていたの……」
ジオツキーとブロディンが、慌ててスピアの楽屋へと確認に走って行った。
「関係者以外、楽屋は立ち入り禁止になっていたはずなのに……!」
私はスピアの震える冷たい手を握り、彼女が落ち着きを取り戻すまで背中を優しく撫で続けた。
いったい誰が、いつの間に、カードを挟んだのだろう?
関係者以外といえば、今この場にはエルムだけだわ。
でも彼女はマルコスに連れられてきたし、奥の楽屋には来ていないし……。
じゃあ誰かが楽屋に紛れ込んで、ドアにカードを差し込んでいったのかしら……?
それとも、内部の者の仕業なの……?
公演は、明後日の夜の千秋楽を残すのみ。
正体不明の『クイーン』は、ミカを古の魔道具で老婆に変え、クララを『悪しき悪戯』で眠らせて、今度はスピアにその矛先を向けたのだ。
クイーンはスピアに何を企んでいるのかしら?
そしてクイーンとは一体何者なのだろう……?
いつもお読みいただきありがとうございます(^^)/
次回【第35話】古の魔道具屋は何処に
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早朝組の皆様、遅めの投稿でスミマセン、時々早朝も投稿しますが時間を変えていますm(__)m毎日必ず投稿していますので、探してついて来てくださったりするとありがたいです<(_ _)>。ちなみに私も生活早朝派です(^^) 今日も一日がんばりましょう♪













