【30】偉大なる魔術師リンダ その3
「リンダ、それは何処? 私、誰があの手鏡を手に入れたのか、突き止めたいの」
「うーん、フェリカ。あそこに行くのはね、簡単じゃないんだよ」
リンダは、眉を顰めてゆっくりと腕組みをした。
「どうやっても行くわ! いいから教えて!」
私は身を乗り出した。
だって、クイーンをこのままにしておくことは出来ないわ。
「まあったく、フェリカらしいね!」
リンダは突き放したように言ったが、その目は優しく私を包んでいた。
「あそこは、古の魔道具の売買したい者には容易に辿り着ける場所。でもそうでない者が辿り着くのは難しいんだよ。業突張りの爺が来店客を選んでいるからね」
「リンダ、どうやったらそこに行けるの?」
「この街で一番悲しい涙が流れる泉に行ってごらん。朝の光が訪れる直前にこう言うんだよ。
『暁闇の狭間、太陽がもたらす最初の光、その光水面に戯れる時、黒き使いよ古の音響く洞へ我を導け!』」
私は、呪文を繰り返し記憶した。
特級魔力が備わっている時は、こういったことも苦にならないから不思議よね。
「フェリカ、これを貸してあげるわ」
リンダの掌の上には、トゥステリア王国の紋章とリンダの名前の頭文字『L』が、光のラインで形作られ浮かび上がった。これは、トゥステリア王国上皇妃であるリンダだけが行える魔術であり、リンダだという証なの。
「これを見せれば、あの業突張りが私の知り合いだってわかるだろうからね。ああ、それからあの爺は腰が悪くてね。雨の日は腰が痛くて休業だから、そのつもりでね」
告げるべきことを全て告げてしまうと、リンダはさっさと次の行動を起こした。忙しいリンダには、トゥステリア王国でもやらなければならないことが待っているはずだ。
「じゃあっ、そろそろ行くわ。フェリカ、このお嬢さんのことは任せて!」
リンダが呪文を唱えると、リンダとミカの周りが白く光りはじめる。
光に包まれ始めたリンダが、はっと思い出してジオツキーに声をかけた。
「そうだジオツキー! レッディが会いたがってて、毎日のように泣くのよ。パパに会いたいって!」
冷静沈着なジオツキーの血相がみるみる変わり、急に慌て出した。
「レッディが!? レッディは元気なんですよねっ? 帰国したらすぐ行きますから! レッディに、そう伝えてください!」
「元気よ、きっとパパに甘えたいんだわ。レッディ、それを聞いたら喜ぶわ! 頼んだわよ、ジオツキー! じゃね、フェリカ!」
眩い光の中にリンダの声は消えていき、白く光る球体が再び空へと舞い上がった。
球体がトゥステリア王国を目指し空を浮遊していく……のを見送りもせず、アメリが団栗眼を落っこちそうになるほど見開いて、ジオツキーに詰め寄っていた。
「ジ、ジオツキー! レッディって誰ですかっ? パパって……? ジオツキー、子供がいたの? ていうか、結婚してたのぉ??」
ジオツキーはいつもの冷淡な調子に戻ってアメリに話す。
「レッディはサラフィの子供で、私が愛情込めて育てたんです。リンダ様に差し上げたので、私に会いたくなったのでしょう」
それを聞いたアメリは、大きな団栗眼を白黒させた。
「えっ、奥さん、サラフィさんていうの? で、子供をリンダ様にあげちゃったって!? あげちゃうって、いったいどういうこと……? ジオツキーってそんな人だったのぉ? ええっ!? 私、もう頭……ついて行けないですぅ……う、うーん……」
知恵熱でへろへろと倒れそうになったアメリをジオツキーが慌てて支えたわ。
ブロディンと私は目を合わせて肩を竦めた。
あのー、大変言いにくいんだけどね、アメリ。
ジオツキーが手塩にかけて育てた馬がレッディなの。そのお母さんがサラフィ。
でもって、レッディはリンダの愛馬。
冷静沈着なジオツキーだけど、彼が唯一感情を顕わにしちゃうものがある……それは、馬。
馬オタジオツキーの熱すぎる馬への愛。右に出る者はいないのよ、うん。
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次回【第31話】役者たち その1













