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【29】偉大なる魔術師リンダ その2

「リンダ、戻せるわよね?」


 リンダは私の言葉を手で『待って』と制すると、その軽い口調とは異なる思慮深い眼差しで、ミカを静かに見つめた。


「……うん、これは大丈夫だね。魔術で出来ないことはないけど、できれば体への負担が少ない方がいいから、解呪の(いにしえ)の魔道具を使ったほうがいいね」


 私にそう言うと、リンダはミカの両肩に手をかけた。


「お嬢さん、とても辛い思いをしたね。怖かったろう? 全て元通りになるから、安心しなさい。あなたの未来はあなただけのもの。誰にも邪魔させはしないわよ」


 そうして、リンダは老婆姿のミカを優しくハグした。

 ハグされたミカの老いた肩は嗚咽で震えていた。

 リンダの言葉が、ミカの苦しさを溶かしているようだったわ。


「わたしと一緒にトゥステリア王国の魔術大聖殿に一緒に来てくれる? 解呪が終わったら、ちゃんとここに送り届けるから」


 ミカは涙を(ぬぐ)いながらコクリと頷いた。


「恐れながらリンダ上皇后様!」


 と横から声を挙げたのはアクティスだったわ。


「私からもお願いを。……ミカのこと、ミカをどうかよろしくお願い申し上げます」


 ミカの気持ちを(おもんばか)って、アクティスが胸に手を当ててリンダに正式な礼をとった。

 そのアクティスにリンダが目を留める。


「おやっ、……その相貌は? もしかしてレジェ―ロ伯爵家?」


 リンダは、(かしこ)まった雰囲気を吹き飛ばして、アクティスを指さして叫ぶ。


「あーっ! あんた、あの『家出嫡男(ちゃくなん)』!!」


「……い、家出嫡男って……。はぁ、確かにそのとおりですが……」


 アクティスは、リンダにズバリと言われてしどろもどろになると、金髪をぐしゃっと掻き上げた。


「二枚目の父親にそっくりだから、すぐわかったよ! ……でも、あの生真面目親父とはずいぶん性格が違うようだわね」


「はあ……」


「ま、時々はこういう威勢がよいのがいないとねえ、大人しいのばかりじゃ世の中困っちゃうでしょ。それで家出嫡男、今はどうなの?」


 急に問われてアクティスは戸惑った。


「ど、どうって……? 僕は精一杯やってるところ……です」


 そう言うアクティスの顔をリンダはじっと見つめてにやにやと笑う。


「ふーん、充実してるって感じだね。……この齢になって私は思うのよね。人生、思うがままに生きるが良しって!」


 そう言って、リンダはアクティスの背中をバンバンと勢いよく叩いた。


「まあがんばんなさい、なにしろ家出嫡男なんだから。しっかりやらないとね!!」


 叩かれたアクティスは自分の背に手を当てて痛そうにしていたわ。


 私はクイーンの手がかりを得たかったので、古の魔道具についてリンダに尋ねた。


「ねえリンダ。私、ミカさんに(いにしえ)の魔道具を使った犯人をどうしても捜したいの。古の魔道具はどうやったら手に入れられるのか、私に教えて」


「昔の人々はあれがどれだけ危険なものかわかっていたからね。でも次第にその意識が薄れてしまってねえ、危機を感じた魔術聖殿が500年ほど前に古の魔道具を高額で買い取ることにしたのよ。そこまではフェリカも知ってるだろう?」


 私が学生時代の魔術史の授業を思い出して頷くと、リンダは続けた。


「そのときね、『()()()()()()()』も買い取っていたんだ。……魔術聖殿の古の魔道具は結界で厳重に守られているから、持ち出すことはまずできない。だから、おそらく()()()()()()から出てきたものでしょうねえ」


()()()()()()?」


「特殊な魔道具屋があるんだよ。古の魔道具を扱う、特別な店がね」


「リンダ、それは何処? 私、誰があの手鏡を手に入れたのか、突き止めたいの」


 リンダは、眉を顰めてゆっくりと腕組みをした。


「うーん、フェリカ。あそこに行くのはね、簡単じゃないんだよ」




次回【第30話】偉大なる魔術師リンダ その3


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