【28】偉大なる魔術師リンダ その1
私はすぐに「偉大なる魔術師リンダ」宛てに魔手紙を送ることにしたわ。
メッセージを書いた紙に呪文をかけ、掌に乗せて息を吹きかけると、魔手紙はすうっと消えた。ちなみに、魔手紙用の魔道具というのもあって、魔力が無い人もそれを使えば、同じように相手の住んでいるところに送れるの。
私はリンダに、すぐにここに来てくれるように頼んだのよ。
魔手紙を送ってから小一時間ほど経っただろうか。
ミカの部屋の窓を開けて空を見上げていると、青い空の彼方に光る点が見えた。その光が次第に大きくなって白い球体となると、ミカの部屋の窓に近づいた。球体が目を開けていられない程に眩く光った途端、すうっと光が消失する。
目が周囲の景色に慣れて、視界を取り戻すと、私の祖母『偉大なる魔術師リンダ』が、ミカの部屋の中に立っていた。
白髪をビシッと整えた初老のリンダは、顔にはしっかり年輪は刻まれているけれど、その黒い瞳はいつだって若者のように輝いている。背筋をすっと伸ばして堂々している立ち姿は孫の私から見てもカッコイイ。魔術聖殿の魔術師のお仕着せマントが嫌いなリンダは、お気に入りの真赤なフード付きマントを着て現れた。
リンダは私たち全員を見回した後、私に視線を戻した。
「ひっさしぶりだわねえ、フェリカ! どう? 元気してた?」
「リンダ! さっそく来てくれてありがとう!」
私はリンダに駆け寄ってハグをした。
「フェリカ、相変わらず厄介事に囲まれてるねえ、周りがほっとかないのか、あなたが飛び込んでるんだか、どうなんだろうねえ?」
そう言ってリンダはで両手で私の頬を優しく包んで目を覗き込むと、にやにやと笑った。
「聞いたよ! 湖水地方の魔術聖殿で、派手にやらかしたんだって?」
「えっ、もうその話、リンダのとこまで行ってるの……?」
私はぎょっとして身を竦ませた。冷汗がだらだら出ちゃうわよ。
いったい、どんなふうに伝わってるのかしら……湖水地方にお見合で行ってたこと、バレてないわよね?
「湖水地方の聖殿長が報告してきたよ。ウフダム侯爵を助けたんだって? 聖殿長があなたに感謝してたわよ」
よ、よかったぁ! とりあえずバレてないみたい。
「でもなんでフェリカがウフダム侯爵を助けることになったのかは、まあ私の想像ではアレしかないけどね」
「リ、リンダ! もうその話はいいからっ」
慌てる私を面白そうに見て、リンダはアハハとお腹から笑う。
そして、皆の方を向くと朗らかに声をかけた。
「ほら、あなたたち! みんな、その姿勢止め~! 顔上げて楽にして、楽に!」
リンダは上皇妃だから、彼女の登場に、私以外みんな膝を着いて頭を下げていたの。
「私はね、堅苦しいのは苦手! そういうのは公式の場だけで十分。皆、楽にしてちょうだい、これ命令!」
そうまで言われて、皆は怖じ怖じと顔を上げて立ち上がった。
「ジオツキー! ひっさしぶりね。いつもフェリカが世話になってるわね。……うーん、相変わらず女難の相が出ているよ?」
含み笑いのリンダがジオツキーに握手を求めて、ジオツキーもそれに応える。
「リンダ様もお元気そうで。いつも申し上げてますが、その話題には乗りませんよ?」
「ああ絶対に面白いのに! 残念だねえ。 ……おやブロディン! また一段と身体が厚くなったんじゃない? 今度私にも鍛練教えて頂戴。齢を取ると、筋力が弱くなっていけないわ」
ブロディンは恐れ多いからか言葉は返さなかったけど、筋トレの成果を褒められて満足そうだ。リンダのお願いに、いつでもと自慢の大胸筋を張って応えていたわ。まあリンダもそこまで鍛えるつもりはないと思うんだけどね。
「あっら、アメリ! ちょっと見ない間に女性らしくなって」
アメリは照れて耳まで紅くなりながら、カーテシーをする。
リンダはその場にいるだけで、皆を明るい気持ちにしてくれる。私の大好きな祖母なのだ。
「それで、このお嬢さんだね?」
ひとしきり挨拶を済ませると、リンダは真剣な表情で老婆姿のミカに向き合った。
背中の曲がったミカの背丈までリンダは屈むと、目を細める。
「ふーん、わかった。古の魔道具だね」
「リンダ、戻せるわよね?」
リンダは私の言葉を手で『待って』と制すると、その軽い口調とは異なる思慮深い眼差しで、ミカを静かにじいっと見つめた。
いつもお読みいただきどうもありがとうございます。
物語が少しでも面白いな、続きが読みたいなと思われましたら、ブックマーク、★、感想で応援よろしくお願いいたします。
【ちょっとここらで設定説明~♪】
トゥステリア王国は大陸で一番の魔術先進国です。そのため王都には魔術大聖殿がありまして、国内もしくは大陸各地に魔術聖殿支部が点在しています。リンダは上皇妃でもあり、大聖殿の魔術師でもあります。以上、説明でした<(_ _)>
次回【第29話】偉大なる魔術師リンダ その2













