【27】宣戦布告
「ミカさん、あなたをその姿に変えたのは、おそらく魔道具ですわ。手鏡は、古の魔道具だったのかもしれません」
「古の魔道具……?」
「フィー、古の魔道具ってなにさ?」
「遥か昔から存在している古代魔術の息のかかった魔道具のことよ。古代魔族の遺物で、今もどこかに存在しているの。そういった魔道具は禁忌とされているから、魔術聖殿に収められているはずなんだけど……」
古の魔道具には、本当は黒魔術の力が及んでいるのだけど、ミカにはショックだと思って私は伝えなかったわ。
私が話し終えると、古の魔道具の恐ろしさを知っているジオツキーが、怒りを押し殺した声で呟いた。
「全く……許しがたいことです」
ブロディンとアメリも口を引き結んでジオツキーに同調する。
「私、元の姿に戻れますか? それともこの姿でこのまま一生……? 役者の夢を諦めなきゃいけないの? それに私、結婚を約束した人がいるんです……こんなおばあさんになっちゃったら、もう結婚もできない……」
絶望と僅かな希望の間に揺れるミカの目からは、とめどなく涙が流れた。
「ミカさん、大丈夫。あなたの姿、元に戻せるはずよ。昔、魔道具で姿を変えられた人の話を聞いたことがあるの。『偉大なる魔術師リンダ』が知っているはずよ。リンダに頼んでみましょう」
ミカはその名前に目をパチクリとさせた。
ユセラニア大陸で、魔術師リンダの名前を知らない者はいないわ。この世界で最も魔力があるといわれている魔術師、それが「偉大なる魔術師リンダ」なのだ。
魔術師リンダの名前が、ミカに希望を与えた。
皺に囲まれたミカの目が生き生きとした輝きを取り戻そうとしていた。
希望があれば、まだ見ぬ敵に対しての怒りも沸々と湧いてくる。
ミカはぎゅっと唇を噛んだ。
「……私、私をこんな姿にした『クイーン』を決して許しません!!」
「私も、ミカさんにこんなことを仕掛けた『クイーン』を絶対に許すことはできないわ」
気に入らないからって、人の人生を奪うなんてことは、誰にもできないはずだ。
何が女王よ。ふざけないで!
「ミカさん、私たちにクイーンのことは任せてくださる?」
私は怒りのあまり知らず知らず立ち上がる。
ミカをこんな姿に変えて、クララを悪しき悪戯で眠らせた『クイーン』。
他人の人生をなんとも思っていないそのやり口に、私は『クイーン』に強い憤りを感じ、全身がワナワナと震えた。
「クイーン、許せないわ……!」
そして私の従者である三人にしっかりと仰せつけた。
「ジオツキー、ブロディン、アメリ!! ここは一役買いますわよ?」
私の従者たちは、無論承知と頷いた。
「お嬢! クイーンなんか一発ぶっとばしちまいますよ!……ああ筋肉が鳴るぜ!」
ブロディンの全身が奮起する。
「私から逃がしはしませんよ? ……完膚なきまでに!」
ジオツキーの眼が不敵に光る。
「フィー様の仰せのままに」
アメリは極上の笑顔で。
「クイーンなんか、ボッコボコに凹ちゃいましょう~!!」
私たち四人は、お互いの視線をがっちりと交わした。
*
ミカは私を不思議そうに見つめていた。
「あの……、あなたは、支配人代理っていうけど歌劇場で会ったこともないし……魔術聖殿から来た魔術師なの? あの偉大なる魔女リンダに頼むって、そんなこと……できるものなの……?」
「ミカ、実は彼女、僕のトゥステリア王国時代の同級生なんだ。そして彼女はね、魔術聖殿の魔術師じゃないんだよ」
「トゥステリア王国! そうだ殿下、トゥステリア王国の出身だったよね? 確か本当は貴族だったよね……?」
アクティスは少し気まずそうにして金髪をガシガシと掻きあげた。
「そういえば、確か魔術師リンダって……トゥステリア王国の上皇妃……」
私はミカに自分の出自を明かすことにしたわ。
「偉大なる魔術師リンダは、私の祖母なの。ミカさん、名乗るのが遅くなって失礼いたしました。私、トゥステリア王国の王女、フェリカ・ビオレット・ディ・アルタヴィラ=トゥステリアですわ」
私は王女の微笑みを品よく浮かべて、改めて挨拶をした。
ミカは仰天して、暫く動きを止めていた。
ごくりと唾を飲みこむと、私を穴があくほど見つめて、そして言った。
「……ああ! あなたが、釣書姫!!」
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フェリカはユセラニア大陸中の人々から、『トゥステリア王国のフェリカ姫と言えば「釣書姫」』として面白可笑しく言われております(;^_^A 頑張れ~負けるな、フェリカ!
そして今回も出ました、前作に続く決め台詞シーン!
気になる方は、前作の『捕らわれ侯爵邸』の【9】宣戦布告 もご覧ください(^∇^)
次回【第28話】偉大なる魔術師リンダ













