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【21】黒魔術は使うべからず その2

「アタシを舐めんじゃないよ! とにかくその小瓶を返しなっ!!」


 女店主は憤怒して目を尖らせると呪文を唱えた。

 私の持っている小瓶を取り戻そうとしたのだ。

 握っていた小瓶が、急に火にかけたように熱くなる。持っていられなくするためだ。 

 私は急いで女店主の魔術を打ち消す、冷却魔術の呪文を唱えた。

 

 小瓶は何事もなかったように、私の手に収まったまま。


 女店主はなんの変化も起きないことに慌てて、何度も同じ呪文を唱えてみたけれど……そのたびに私も冷却魔術を使ったから、結果は同じだったわ。


「な、なに……!? アンタの仕業?」


 女店主は今度は捕縛魔術を放ってきた。私から身体の自由を奪った隙に、小瓶を取り戻そうと思ったのね。だから私はすぐに捕縛を断ち切る呪文を唱えた。


 自分の魔術が何も動き出さなかったので、女店主は口をあんぐりと開けていた。


「とにかくっ! それを返すんだよっ!!」


 女店主は私に掴みかかろうとした。魔術では私に敵わないとわかったからだろう。

 ブロディンが身構えるのが見えたけど、私はそれより速く、今度は私から女店主に捕縛魔術をかけたわ。

 女店主は、見えない縄で肩から足先までぐるぐる巻きにされたかのように、体の自由を奪われる。じっとしていればよかったのだけど、その恰好で手先足先をばたばた動かしたので、バランスを崩して床に尻もちをついてしまった。


「な、何するんだよっ!!」


 同じ捕縛魔術を私にかけようとしたくせに、よく言うわよね?

 私は、カウンターの中で起き上がれずに藻掻(もが)く女店主に尋ねた。


「……ひとつ訊くわ。『悪しき悪戯』はあなたが作ったの?」


「喋ったら解放してくれんのかいっ?」


「……そうね。考えてもいいわよ」


「そうだよ、あんなの簡単さ!」


 悪びれず言い放つ女主人に、私は声を低めた。


「悪しき悪戯を扱うことは、魔術法で禁止されているのは知っているのでしょう?」


「そうだけど、みんなやってるじゃないか!」


 そう、悪しき悪戯は、残念ながら世間で横行している。


「‥‥‥あなた、他にも黒魔術を使ってるの?」


「簡単なものだけさ! 儲かるんだからちょっとぐらいいいだろ?」


「黒魔術を使ってはだめよ。黒魔術はね、あなたの命を削るのよ?」

 

 黒魔術は、自分の命と引き換えなのだ。使えば使うほど気分が良くり、終にはその身を亡ぼす。

 私はつい数日前、トゥステリア王国の湖水地方で黒魔術に乗っ取られ悪魔化してしまった男と戦ったの。だからその恐ろしさを身をもって知ったのだ。

 でもこの女店主は、何も知らないのね……


「そんなこと聞いたこともないし、アタシはこの通りピンピンしてるよ。黒魔術を使っても特に困ったことは無いね。五月蠅(うるさ)い小娘っ、アタシの商売に余計な口出ししないでおくれっ!」


 話を聞こうともしない女店主に、私はあることを思いついたわ。

 言ってもわからない場合は、実際に見てもらったほうが納得できるわよね。


 私は、自分の魔力を()()()()()女店主に披露することにしたの。

 私は特級の魔力を体に(まと)わせて、それに光魔術を加えたわ。こうすることで、その人がどれ位の魔力を持っているのか、誰にでも見ることができるの。

 これはね、魔術聖殿の聖職者が儀式の際に人々に見せている方法なのだ。

 もちろん、私は魔術聖殿の者ではないわよ? ないけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()にしたの。

 

 

――私の体が、手足が、髪が。瞳でさえも。……私の内側から放たれる魔力が金色の光を帯びた。



「ひっ……!」


 女店主の血相が変わる。

 見たことも無いレベルの魔力に気圧されて、拘束されて尻もちをついたままだけど、それでも後退ろうとしていた。


「ア、アンタ‥‥‥もしかして魔術聖殿から来たのかい‥‥‥? ……その魔力……でもそんなスゴイの見たことないよ?」 


 私が、『魔術聖殿から来た』ですって? 

 あらっ! 私、そんなこと一言も言ってないですわよ?

 まあ~でもそう思ってくれたのなら、話は早いわね。

 私は心の中で、にんまり笑った。

 

「ま、魔術聖殿のお偉いさん! お、お願いだよぉ、く、黒魔術のことは内密にしといてくれないかい? ねえ? 営業できなくなってしまうよぉ」


 女店主の顔色は真っ青だ。


「あ、あの、は、白竜の鱗も1000リラでいいよ! ね? と、とにかく、おお、お願いだから魔術聖殿には報告しないでおくれよお‥‥‥?」


 女店主はさっきまでの傲慢な態度から、今度は必死になって懇願する。


 魔術聖殿、魔術聖殿とそんなに(おっしゃ)ってくださるなら、ここは乗っかっておくことにしたわ。

 

 だから私は堂々と声に威厳を含めてこう言った。

 ついでに、私の魔力も一層光らせておいたわ。

 

「今後一切、黒魔術を使わないと約束しなさい。約束できるなら、公にせずこの場だけで収めましょう」


「わ、わかった! 約束するよ、する!! 黒魔術はもう絶っ対に使わないから!! ね? だから、お願いだから、ゆ、ゆ、許しておくれよぉぉお~~!!




 魔術聖殿とは何の関係も無い私だけれど、まあ結果的に、女店主にも世の中にも良いことをしてるんだから、いいわよね?




物語が少しでも面白いな、続きが読みたいな等と思われましたら、ブックマーク、★で応援お願いいたします(^^)


次話【第22話】幕間~うたた寝~ 


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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりブロディンいい男でしたね♪ あれアメリもしかして?  フェリカ姫も前作より成長してますね! [一言] リラという単位、なつかしいです。マルクとかフランとか、なんか響きに憧れてたのに…
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