【20】黒魔術は使うべからず その1
「ガキのお守りは疲れるな。やっぱり大人の女は違うなと思っただけだ」
「ブロディン酷い!‥‥‥私たちのこと、そんな風に思ってたの?」
アメリはこれ以上大きくならない位に目を見張った。
「悪いな、アメリ」
ショックを受けたアメリの団栗眼に、みるみる涙が溜まる。
「ほんと、ガキはうざいわよね~! アンタ、話が分かるじゃないの!」
ブロディンに手を握られて、女店主がはしゃぐ。
ブロディンが女店主の耳元で何かを囁くと、女店主の目は夢見心地になった。
「オレは、ここで悪しき悪戯を買ったやつの情報が欲しい。それさえわかればオレの今日の仕事は終わりだ。あとはここでゆっくり過ごせるぞ」
「じゃあ教えてあげる」
甘い声の女店主。
すっかりブロディンに入れ込んでしまったみたいだったわ。
「何日か前に、『悪しき悪戯』を買いにきた若い女がいたよ。お奇麗なひらひらドレスを着てて、クソ生意気な態度だったわね……ああ、あの女思い出しても腹が立つ!!」
女店主はカウンターを悔しそうにドンドンと叩いた。
「どんな顔をしてた?」
女店主はカウンターを叩いていた手を止めて、うっとりブロディンを見つめる。
「ん~、わからないわ。フードを被っていたから」
「その娘は何か言ってなかったか?」
ブロディンが女店主に距離を縮めて問う。
「あら、やっぱりアンタ近くで見ると相当いいオトコじゃないのお。うーんとねえ……確か、熱を加えても効果あるのかとか聞いてきたわよ?」
女店主は私とアメリを見下げて、クスクスと嘲笑った。
「いったい何に使ったのかしらねえ? アンタたちの知り合いは、あいつにしてやられちゃったってわけね? ああ可哀そう!」
あっはっはと高笑いの女店主。
ジオツキーに抑えられたアメリが、ブロディンの心変わりに涙しながらも、女店主の侮辱に全身を震わせて怒っていたわ。
私はまだ笑い続けてい女店主を無視して店のカウンターに進み出ると、小瓶を手に取って千リラ紙幣を三枚置いた。
もうこれ以上、悪しき悪戯を買いに来た者の情報はわからないと判断したの。
「これ、いただくわ」
「小娘はこっちに近づくんじゃないよっ!」
女店主は私を一喝した。そしてカウンターの紙幣を見ると、さらに目が吊り上がった。
「ちょっとなんだいコレ、三千リラじゃないか! 一万リラって言っただろ!? その小瓶を返しなっ!」
私は女店主をまっすぐ見据えた。
「……あなたが売った『悪しき悪戯』のために、この『白竜の鱗』が必要なのよ?」
「だから何だって言うんだい? 1万リラでいいってこの男が言ったじゃないか!」
「確かに、私の従者はそのようなことを口にしたかもしれません。でも主人の私は承諾していません」
背筋をピンと伸ばして声を張り、今度は私がぴしゃりと女主人に言い返した。
「一般的には千リラですから、いくら夜間とはいえ1万リラは法外すぎる金額では? それに悪しき悪戯は魔術法で違法薬物に指定されているのは、勿論ご存じですわね?」
「アンタたち……!」
女主人は私とブロディンを見てはたと感づくと、ブロデインに噛みついた。
「おいっ、お前! アタシに何をした?」
「悪いな。ちょっとだけ魅了魔術に付き合ってもらった」
魅了魔術は相手に少しでも好意を感じていると、効果覿面だ。魅了魔術をかけられると、相手の望みを叶えてしまいたくなる。
ブロディンは女店主に気がある振りをして、その魔術を使ったのだった。
おそらく耳元で囁いたあの時ね。
「何だってえ? だからアタシ、アンタにあの女の話をぺらぺら喋ったのかい!」
「いいじゃないか、話したところで減るもんじゃなし」
さっきまで好意を抱いていたブロディンに、いけしゃあしゃあと言われて、女店主は悔しそうにぎりぎりと歯噛みした。
「アタシを舐めんじゃないよ! とにかくその小瓶を返しなっ!!」
女店主は憤怒して目を尖らせると呪文を唱えた。
私の持っている小瓶を取り戻そうとしたのだ。
次回【第21話】黒魔術は使うべからず その2













