【1】悩めるフェリカ王女の諸事情
『どうか、あなたのお名前を教えてください! 今日会ったばかりだというのに、私の心はもうこんなにも、あなたに夢中になっているのです……!』
『私の名前は、……ジュリエット』
『ジュリエット? 西の国のジュリエット王女があなただったとは! 僕は、この国の王子ロミオ。僕たちがここで出会ったのは、きっと運命に違いない!』
オーケストラの演奏が、二人の台詞の後に続いて厳かにスタートした。舞台上で、お互いの愛の感情を歌い上げて抱きあう、大人気俳優と女優。
もうじき千秋楽を迎える超人気のこの歌劇『ロミオ王子と鏡のジュリエット王女』の観客席は、びっしりと埋め尽くされていた。
舞台上の二人の出会いのシーンに観客たちは熱い視線を送り、ため息を漏らす。
私もそのうちの一人。
一階席の最後列から舞台を食い入るように見守っていたわ。
前席の若い女性客が、隣の友達にヒソヒソ声でおしゃべりをしている。
「あ~、私も王女になって、素敵な出会いをしてみたいわ~」
……はーい、そこのお嬢さん! 残念ながら、王女になっても素敵な出会いなんか全然ありませんわよ?
話しかけられた友人が言葉を返す。
「私も王女になりた~い。いろんな男性から求婚されちゃうんだろうな~」
……はーい、そちらのお嬢さんも! 残念ながら、王女になっても全く求婚されませんのよ?
なんで、そんなことわかるのかって?
はい。それはね、
私が王女だからなの!
私は、フェリカ・ビオレット・ディ・アルタヴィラ=トゥステリア。トゥステリア王国の王女である私は、今、隣国カルドの歌劇場にてお忍び観劇中よ。
なぜ隣国カルドに来ているかっていうと、超人気のこの歌劇を見るためなの!……と言いたいところだけど、違うのよ。
実はね、大きな声で言えないのだけれど……明後日に開催される、大婚活パーティに参加するためなのだ。
そう、王女の私だけど、絶賛婚活中なのよ。
なんで婚活中かって言うとね、あの、聞いてくださるかしら?
私は十六歳の時、会ったこともない婚約者を流行り病で亡くしてしまって、当然、婚約は破棄ということになってしまったの。
そしてね、十七歳の時に、一人目のことがあったから、今度は屈強な大尉と婚約したの。そしたらその人も会う前に、蛮族との戦いに勝利した晩に、祝杯に酔って足を滑らせちゃって、打ち所が悪くてお亡くなりになってしまったのよ。
それで私は二回の婚約破棄を経験してしまったの。昨今流行ってる婚約破棄宣言なるものがあるらしいけど、お相手がそういうことだから、私にはそんなことは無かったわ。
そしたらね、この出来事が黒歴史になっちゃって、フェリカ王女と婚約すると不幸になると思われて、結婚相手が全く見つからなくなってしまったの。
私、全然悪くないわよね? なのに、ひどいでしょ?
なかなか相手が見つからなくて焦った私は、なんとかしようと釣書(お見合い身上書)をユセラニア大陸のあちこちに送ったんだけど……。気合が入りすぎて、ちょっと派手にやりすぎちゃって。
それで世間からは、『釣書姫』なんて渾名を付けられてしまったのだ。
おかげで『トゥステリア王国のフェリカ姫といえば「釣書姫」』、なんて面白可笑しく言われる始末。
こんな調子で結婚相手が全然見つからず、不運の婚約破棄からお相手を探し続けること丸三年、以上……。
はぁっ……、長いわよねぇ……。
あ、でもね。いつもダメダメっていうわけでもないのよ?
今までだって、時々は婚活パーティでイイ感じになった男性はいたのよね。
だけどね、
「どうかあなたのお名前を教えてください!」
と言われて、
「フェリカ・ビオレット・ディ・アルタヴィラ=トゥステリアです」
って伝えた途端、大抵の男性は真っ青になって逃げていっちゃうの。
――私も、もう二十一歳よ。
世の中の同年齢の王女様たち、そして私の貴族の友人たちも、ほとんど結婚してしまった。
妙齢すぎていい加減マズイのよ。
『もう~こうなったら一人で生きていくのも悪くないかも!?』
とかヤケになって思うんだけど、でもまだ諦めたくないじゃない?
……それで、なんとか婚活を頑張ってるところなの。
舞台では、主演俳優と女優が身を寄せて、見つめ合いながら、愛の二重奏を歌っている。
ああ、私も舞台の王女がうらやましい! 抱擁とか、まだしたことないしなあ……
あ~、私も運命の相手と出会いた~い! それもできるだけ早くにね!
王女の私は、前の女性客たちとは違う意味で、舞台を羨ましく見てしまうのだった。
はじめまして。作者の あき伽耶 です。
お読みくださってどうもありがとうございます!
婚活に悩み奔走するフェリカ王女と、従者たちの冒険の物語り、どうぞお楽しみください!
※この作品は、『王女なのに婚活に苦労してまして。~このたび、ワケアリ侯爵邸にて出張お見合い奮闘します!~(釣書姫シリーズ①)』の続編です。ですが、前作を全く読まなくとも、お楽しみいただける内容となっていますので、全く問題ございません♪
尚、釣書姫シリーズ①は作者処女作のため、本作とは会話率や物語のテンポ感などちょっと違いますが、もしよろしければ是非お手に取ってみてください(*^^*)
(掲載当初は、前作本作共にハイファンタジージャンルでしたが、なろうの作品傾向に従いまして、完結後に異世界恋愛ジャンルへ引っ越しました)