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夜の訪問者

エリックがうつらうつらしていると誰かの気配を感じた。

目を開け、上体を起こす。


薄暗くて見えないが、確実に誰かいる。


恐怖はない。

誰が来たかわかっているからだ。


「ニコラだな…待ち侘びていたぞ」


薄暗い灯りの中、立ち尽くしている人影にエリックは声を掛けた。




長い薄茶色の髪に細い体。

顔には仮面をつけている。


音もなくこちらに近づいてきた。


「エリック様…本当に、本物のですか?」


その声は震えていた。



「あぁ、そうだ。長年不在にしてしまって済まなかった。お前が生きていてくれて、良かった。誰も生存を教えてくれなかったからな」

拗ねるようにエリックは言う。


ルアネドからニコラが死んだと聞いていたが、やはり生きていてくれたのだと嬉しい。

「契約は発動しましたから、一度は死んだのです。僕も、あなたと共に」


ニコラには、エリックが死ねばニコラも一緒に死ぬという契約魔法が掛かってる。


それは古くからある呪われた魔法で、命を賭して主人を守るために、人間を奴隷にするためのものだ。

逆にどんな酷い目にあっても主人が生きていれば死ねないから、ニコラは嬉々としてこの契約魔法を結んだ。


どんなにつらく苦しい目にあっても、エリックの為なら何でもするという誓いの為に。






ニコラが仮面を外す。

死んだ為の後遺症か、白目部分は赤く充血しており、顔にも赤く、血管が浮いていた。


一度死んで蘇ったからか、それらは消えなかったそうだ。


「この顔、他の人には怖いらしいです。いちいち叫ばれるのも、怯えられるのも煩わしいので、今は仮面をして過ごしています」


仮面をつけ直し、痕跡を隠す。


「今まではどこにいたんだ」


「内密にエリック様を探す旅に出てました。ごく近しい者以外には秘密にしていましたので、ルアネド様にはこっそりとティタン様から伝えてもらったんです。エリック様を助けてくれた味方なので。僕の死亡届は受理されていませんが、皆に姿を見せていないから死んだものと思っているでしょう」




世間的にはニコラは死んだ者となっている。




ニコラが息を吹き返したのは、エリックが亡くなった翌日だ。




苦しかった。

止まっていた心臓が急に動かされた。


頭が割れるように痛い。

酸素を求め、嗚咽を繰り返し、息を吸った。

気道に血が詰まっていて、うまく息ができない。


涙が自然と溢れ、頭痛も鳴り響いていた。



そうこうしているうちに、異変を知ったティタン達が霊廟室に来てくれた。


ニコラはエリック以外に仕える気はなかった。


国の秘密を知っている従者を外に出すのは良しとされないと思い、自分はもう死んだ者として扱ってほしいとティタンに伝えて、城を飛び出した。


ずっとエリックを探して、方々を歩いた。


なかなか見つからず、心が折れかけるのもしばしばだったが、自分が息を吹き返したのだから、エリックもどこかで生きていると思った。




そのうちにマオがエリックの生存を知らせてくれたのだ。


「あなたを守れませんでしたが、それでもまた再び、あなたのお側に仕えさせて欲しい。この命は貴方と共に…」


ニコラは跪いた。




「またよろしくな。ニコラ」

再び自分の元へと来てくれた従者を、歓迎する。


生きていてくれて本当に良かった。








今までのエピソードを話し、貞操を奪われかけた話になった時に、ニコラから久々に殺気があふれた。

「その子爵、殺してきます」


「もう裁かれるのが決まってるから、余計な事はしなくていい」

「いえ…俺がしなくてはいけないことです。安心してください、すぐに片付けてきますから」


来た時と同じように気配なく消えていく。


「せっかちだなぁ…」



翌朝の出立前にニコラは戻ってきた。


「終わらせてきました」

そう言って何食わぬ顔で、再びエリックに付き添うようになった。

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