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ティタンの屋敷

「皆変わりはないか?」

ティタンの屋敷につくと、皆が出迎えてくれた。



エリックの顔を見て、ティタンの妻であるミューズはポロポロと涙を流し、従者のマオがその小柄な体を支える。


ティタンに仕える双子の護衛騎士、ルドとライカは膝をついてエリックに敬意を示した。


「無事を、ずっと祈っておりました…」

ミューズは涙で言葉が紡げないようだ。


昨夜話を聞いてからずっと落ち着かなかったのだが、直に顔を合わせるとついに感情が溢れて、ミューズは泣き崩れてしまった。




「良かった、本当に良かった…」

ティタンがミューズを抱き上げるとその体に縋りついた。

なかなか涙が止まらない。


「そうだな…兄上が無事で本当に良かったよな」

幼子をあやすようにティタンは優しく声をかける。




十年前のあの日をどれだけ悔やんだだろうか。


自分達がもっと早くにエリックのもとへと到着していたならば、もしかしたらあのような悲劇は避けられたかもしれない。


ティタンがいれば、エリックを殺したものを取り逃がすこともなかったかもしれない

ミューズの回復魔法があれば、瀕死の状態のエリックの命を救えたかもしれない。


ルドやライカ、マオもいたならば、大勢のアドガルム兵の命も奪われなかったかもしれない。


過ぎ去ったことだ、今更言っても仕方ない事なのだ。


それでもそれらは皆の心に抜けない楔となって残っていた。




「心配をかけてすまなかった…」

義妹の涙に申し訳ない気持ちばかりだ。

ルドやライカ、マオにも声をかける。


「お前たちも、ずっとティタンとミューズを支えていてくれてありがとう。俺がいないアドガルムを守ってくれていたと聞いた、恩に着る」


マオも跪き、頭を下げる。


「滅相もございません。僕達は自分達の仕事をしたまでのこと。それよりもエリック様が無事にこうしてお戻りになったこと、神の思し召しだとしか思えません。よくぞ、ご無事で…!」


マオも感極まったのか、涙が落ちる。

ルドとライカも震えていた。


「再びお会い出来、何と申してよいのか…エリック様、俺達はずっと信じておりました。あなた様が戻られ、王位につくことを信じ、生きてきました。アドガルムをより良いものに出来るのはあなた様だけです」


「俺達の思いはティタン様と同じです。この剣は主とアドガルム国の為に振るわれます。エリック様に仇なすものを排除する許可を、再びあなた様の口から頂けますようお願い致します」



エリックは目線をやる。


「マオ、ルド、ライカ。そしてティタンも今までご苦労であった。俺が戻ってきたのだ、もう少し時間はかかるだろうが、これからは何の心配もさせない。俺がレナンを…アドガルムを支えていく」


コホンと咳払いをする。

つい妻に会いたい気持ちが先行してしまった。



「レナン様とお話出来ていないとお聞きしましたが…良かったら私の通信石にてお話なさいますか?」

涙を拭い、ようやく泣き止んだミューズが恥ずかしそうにそう伝える。


ティタンはミューズを抱きかかえてはいないが、手は繋いだままだ。

というかティタンがしっかりと握っている。



「いや直接会って話したいと思ってな」

「早く言ってほしいのです、目茶苦茶心配して、痩せて、寂しそうなのですから!」


「ぐっ!」


マオの訴えを聞いて、エリックは罪悪感を覚える。


だがレナンの声を聞いたら、言葉を交わすだけで抑えられる自信はない。


「ならば今から向かう、馬を貸してくれ」

再三ティタンも進言され自ら断ったのにあっさりと意見を覆してしまう。

レナンが寂しそうにしているなどと改めて言われては、やはり心がざわめいてしまう。

「お待ちください、お姉様も急な訪問は困ってしまうと思いますわ」

ミューズが止めた。


「もちろんエリック様に会いたい気持ちはあるはずです。しかし、迎え入れるための時間が必要なはずです、気持ちの準備をするためのものも」


エリックの今の体は子どものものだ。


話しには聞いていても実際に会うのとは違う。

多少なりとも覚悟は必要だ。


「数年ぶりに愛しい人に会えるとなると様々な心の整理もいるかと思うのです。お願いです、明日にしませんか?」



ミューズの言葉に、エリック達はようやく落ち着いた。


「お話だけではエリック様は物足りないかもしれませんが、後で一言だけでも声を聞かせてあげてください。それだけでも違いますわ」


「あぁミューズ嬢の言うとおりにするよ。ありがとう」

エリックはレナンの気持ちを汲み取って伝えてくれるミューズに感謝する。



「では後ほど場を整えましょう。兄上に子ども達も会わせたいと思うのですが、覚えていますか?」

「セレーネは覚えている。だが子ども達というのはもしかして」

姪の事は覚えている、とても小さい頃だが。


「他にも息子が出来ました」

「そうか!」

エリックは驚嘆の声を上げる。


「甥が増えていたとは喜ばしい。早く会わせてくれ」

ティタン似なのか、ミューズ似なのか、どちらにせよ嬉しいニュースだ。


「今呼びます、少々お待ちを」

ティタンが侍女に言いつけ、来るのを待つ。




待つ間、ルドやライカ、マオとも話す。


「落ち着いたら、お前たちの子どもにも会わせてくれ。皆親になってるとは本当に十年という歳月は色々な事が起きるな。特にマオ。お前は義妹になるし、その子は俺とも血が繋がっている。リオンを含め、じっくり話をさせてくれ」


リオンはエリックの下の弟だ。


今日はアドガルムに泊まり、仕事をしているという。

明日エリックとレナンが少しでも多く話が出来るよう、時間を作るために頑張っているそうだ。



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