第7話 不幸な少女パール
パールという少女は、不幸だった。
彼女の母親は、ある日突然いなくなった。
後に残ったのは、酒とギャンブルにあけくれ、娘に暴力を振るう父親。
そんな父親もいなくなった。
そして残ったのは、莫大な借金だけであった。
複数のカジノや飲食店に対し作られた借金は、膨れ上がる利子と共に少女の肩へのしかかった。
といっても、学校にすら行っていない13歳の少女に、金を生む手立てなどあるはずがない。
パールは家の前にあるゴミ捨て場を漁りながら、限界の状態で日々を過ごしていた。
そんなある夜。
借金の取り立て代行人を名乗る男が現れた。
「仕事を紹介してやる。若い女ならいくらでも稼ぎ道があるからな。……ん? お前その顔」
パールの顔の右側、こめかみから頬のあたりにかけて大きな火傷痕があった。
「火傷か。誰にやられた?」
「お父さん」
「……そうか」
男は闇ギルドのスカウターだった。
闇ギルドとは、主にカジノや売春、薬物売買などを裏で取り仕切る組織だ。
そしてスカウターの仕事は、債務者を働かせて借金を返させること。
それは正しく言えば、借りた額の何倍もの金を半永久的にむしり取ることである。
元々借金の量が莫大な事に加え、まだ幼く判断力の無いパールなど、彼らにとっては格好のエサであった。
「ほら、お前は今日からここで働くんだ」
13歳のパールが連れていかれたのは、東区6番街にある売春宿”マーメイド・ドリーム”。
そこは庶民向けの売春宿の中でも比較的安い方で、所謂“大衆向け”の売春施設だった。
「俺はここを仕切ってるドリドだ。これからは俺の言うことを聞けよ、分かったな?」
店主のドリドは、闇ギルドと太いパイプを持つ強面の男である。
彼女はその店主に命じられるがまま、娼婦としての仕事のみならず、事務仕事や雑用までもをやらされながら住み込みで働いていたのだった。
そして、売春宿での生活が始まって四年が経過した。
17歳になった今でも、そこが彼女の職場だった。
ドリドはその日も、パールの売上が良くない事に腹を立てていた。
「パールよお、もっと本指名されなきゃ稼げねえぞ?」
ドリドは葉巻を吹かしながら言った。
「まーただんまりか。てめえはツラにキズありなんだから、もっと愛想良くしなきゃリピーターがつかねえだろうが」
「はい……ごめんなさい」
パールは何も感じなかった。
怒られるのには慣れていたし、いくら頑張っても借金が減らないことくらい、算術のできない彼女でも察していた。
「今月は利子の分さえギリギリなんだから。もっと頑張ってくれよ」
顔の火傷痕のせいで結婚なんてとっくに諦めていたし、まともな教育も受けていない自分が働けるのはここしかない。
自分はずっと減らない借金を抱えたまま、マーメイド・ドリームに骨を埋めるのだろう。
漠然とそんなことを考えながら、ドリドの説教を聞く日々。
そんな時だった。
「──よーう、邪魔するぜ」
黒髪に黒眼という奇妙な風貌の男が、へらへら笑いながら現れたのは。