第19話 ナンパにはご注意
東区13番街にある酒場”ビッグハット亭”。
ある夜、紫色のローブをまとった女性が入店しカウンター席に着いた。
「いらっしゃい」
「店長、オススメを」
「はいよ」
フードをかぶったまま座っている彼女を、客席の男集団がじろじろと見ている。
「おいおい、アイツ見たか?」
「ああ。フードで口元しか見えなかったが……」
「間違いなく美人だぜ」
彼ら5人は、つい最近この店に来はじめた連中である。
酔えば女にはナンパ、男には喧嘩を吹っ掛けるので、店長アーウィンも手を焼いているのであった。
昼間から飲んだくれてすっかり酔いの回った男たちは、勢いに任せてカウンター席に歩み寄った。
「お~い、そこのお嬢ちゃん」
「……何か?」
「そんなところで一人で飲んでないで、俺たちと一緒に遊ぼうぜぇ?」
「……」
「おいおい、無視すんなって」
男の一人が彼女の肩に腕を回した。
他の4人は、下卑た笑みを浮かべながら彼女を囲んでいる。
「……私の肩から今すぐその汚い手をどけなさい」
「おいおい睨むなよ、怖えじゃねぇか? げっへっへ」
角の小さなテーブル席に腰かけ、その様子を見ていたのは用心棒のミロク。
「ナンパにしてはやりすぎでござるな」と呟き、止めに入ろうと腰を上げたその時。
「うぉあッ!?」
悲鳴と同時に凄まじい旋風が店内に巻き起こり、5人の男が一斉に吹き飛んだ。
彼らは店の壁に強く叩きつけられ、腹や肩を抑えながら床にうずくまる。
「忠告はしたわよね?」
女は椅子から立ち上がり、左手の平を男たちの方へ向けていた。
周囲には皿やグラス、椅子が散乱している。
物音を聞いて慌てて厨房から飛び出してきたアーウィンは、彼女を見て言った。
「こりゃ派手にやったなぁ、お客さん。ところでアンタ、エルフだな?」
フードが取れて露わになった彼女の耳は、長く尖っていた。
髪は美しいエメラルドグリーンで、瞳は赤い。
“エルフ”は他種族に比べて筋力が少ない分、魔法の才能に恵まれた種族。
人間にも専門的な修行を積み魔法を習得する者はいるが、生まれ持った才能でいえばエルフが世界最強である。
「店を荒らしたわね……失礼、ついカッとなって」
金を置いて出て行こうとする彼女を、アーウィンは慌てて引き止めた。
「あー待ってくれ。悪いのはアイツらだから」
「でも」
「アイツらにはみんな迷惑してたんだ、むしろありがたいくらいさ。これでもう、この店には寄り付かないだろうよ。……ミロク、頼んだぞ」
ミロクは「御意」と頷くと、壁際で伸びている男たちを抱え上げて店の外に転がしておいた。
「せっかく来たんだし、お代は要らないからもうちょい楽しんで行きな」
「そ、そこまで言うなら仕方ないわね」
エルフの女は、アーウィンに促されるままに再び席に着いた。
「改めまして、俺はアーウィン。この店を始めて十年ほどになるが、エルフの客なんて初めてだ。そこまで目立つ店でもないしな。……ま、最近は色々あって人の出入りが増えたが」
彼女はぶどう酒を何口か飲むと口を開いた。
「私はエリス。ハイガルドから来たエルフよ」
「ここへは何の用で?」
「ある人間を探しに来たんだけど……酒場の店長さんなら顔が広そうだし、ちょっと尋ねても良いかしら?」
「人探しか。一体どんな人だい?」
「それが……その人の顔も名前も知らないのよね」
「ど、どういうことなんだそれは」
エリスはグラスのぶどう酒を飲み干し、思い出すように話し始めた。
「あれは丁度一年前だったわね……」
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