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第17話 ジルの少女時代

 今から約13年前。

 ジルは東区10番街にある、修道院付属学校に通っていた。


「おい、またメイラが泣いてるぜ!」

「泣き虫メイラ~!」


 数人の男子生徒が、一人の女子を囲んで囃し立てている。

 通う生徒は皆が平民だったので貧富の差は小さかったが、やはりどこの世界にも”イジメ”というものは存在するのだ。


「やめろ! 泣かせたのはお前たちだろう!」


 彼らの輪の中に割って入ったのは、幼き日のジルであった。


「ジルは黙ってろよ、関係ねーだろ」

「そんなに他人をはたいたり、つねったりするのが楽しいなら、この私にやってみろ!」

「この野郎……女のくせに生意気なんだよ!」


 “女のくせに”。

 そのセリフにカッとなったジルは、目の前の男子に殴りかかった。

 男子もむきになって応戦し、教室は大混乱を極めた。


 やがて教師を務める修道士によってその場は収められたが、ジルと相手の男子には無数のアザやたんこぶが残った。


 その日の夕方。

 修道士から事情を聞いた母親は、帰り道でジルに尋ねた。


「ジル、あなたはお友達のために戦ったのね?」

「……ううん」


 ジルは首を横に振った。


「先生はそう言ってたわよ? メイラちゃんがイジメられてるのを見て助けたって」

「私はね、男子が嫌いだから殴ったの」

「どうして嫌いなの?」


 ジルは突然泣きだし、母親にしがみついた。


「どうしたの、ジル?」


 母親はしゃがみ込み、ジルを抱きしめて背中を優しくさすった。


「……ぅう、ぐすっ」


 男は嫌いだ。

 女をバカにするし、いつも下に見ている。


 城で近衛兵として働く父親は、家には滅多に帰ってこない。

 家族を放っておいて国のために戦わなくてはならないのは、彼が“男だから”だろうか。

 そのせいで母親がいつも寂しい思いをしているのは、彼女が“女だから”だろうか。


 男は強くて、女は弱い。

 そういった無意識のルールが、世界を縛っている。

 そして自分もまたそれに縛られているのが、ジルは許せなかったのだ。

 しかし9歳の彼女には、それを言葉にするだけの語彙力は無かった。


 それから少し経ち、ジルは10歳で剣術・槍術を習い始めた。

 男に軽んじられることのない“強い女”になりたかったからだ。


 13歳で学校を卒業すると、さらに武術の修行に励んだ。

 武術をやっていても、女性だからという理由で下に見られることは多い。

 しかしそういった連中と手合わせし、完膚なきまでに力の差を見せることで黙らせてきた。


 ジルは15歳で騎士団に入隊した。

 外衛兵の見習いとして、日々雑務をこなしながら鍛錬を続けた。

 男性だらけの職場で、セクハラやパワハラ、性差別に遭いながらもめげずに頑張ってきた。


 それから8年の月日が流れた。

 23歳になったある日、妙な噂を耳にした。


 “男女の出会いのギルド”を名乗る、怪しい集団がいるらしい。

 さらには公民館の一室を貸し切り、女を手玉に取るための方法を教える不純な会合を開いているというのだ。


「下衆な男共が……どうせ女をストレス発散の道具としか思っていないのだろう。成敗してくれる」

「待ってください副団長、もう少し証拠を集めてから──」

「うるさい、私は行くぞ」

「せめて事実確認のために聞き込みを──」

「嫌ならついてくるな。男の助けを借りなくとも、私一人で充分だ」


 こうして意気揚々と乗り込んだ矢先で出会ったのが、青髪の隻眼剣士、オレンジ髪の青年、そしてリヒトだったというわけである。

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