第14話 銀鎧騎士vs青髪剣士
「私は東区外衛兵団副団長、ジル・レインアートだ!」
そう名乗る声はなんと女性の声であった。
ミロクは刀の柄に手をかけたまま尋ねる。
「衛兵殿が部下も連れずたった一人で、何用でござるか?」
「部下のクソ男共は役に立たないので置いてきた! 貴様らだな、不健全な勧誘をしている輩というのは!」
「愛は自由。出会い方は人それぞれ。拙者らはその手伝いをしておるだけにござる」
「おとなしくお縄につけば、手荒なマネはしないぞ」
「罪人扱いを受ける道理は無いでござる」
「ええい、ならば仕方がない!」
ジルと名乗った騎士は長槍を振り、一直線にミロクへと迫る。
(──速いッ!?)
ミロクは刀を鞘ごと取り、間一髪のところで槍を弾いた。
「ふんっ、やるではないか!」
「おぬしこそ」
それから続けざまに振り下ろされる槍を、ミロクは刀の鞘で防ぎ続けた。
「このクソ剣士め、なぜ剣を抜かない!?」
「女を斬る刀など持たぬ」
「チッ、なめやがって……だから男は嫌いなんだ!」
一歩後退したところから繰り出される、横の大振り。
乱雑だが強烈なその一撃を、ミロクは鞘に入ったままの刀で受けながら吹き飛ばされた。
ミロクは迷っていた。
女性に刀を当てるというのは彼の信念に反する。
かと言ってこの衛兵を見逃せば、アーウィンとリヒトに対する裏切り行為となる。
君主の命に背くのは、武士道ではあってはならない事だ。
「そこのオレンジ髪のお前! お前も仲間だな? 拷問してボスの居場所を吐かせてやる」
「勘弁してくれって……」
ジルは次のターゲットをカインに定め、槍を向けている。
ミロクは壁に打ちつけられた身体を起こすと、再び刀の鞘を持ってカインの前に立ちはだかった。
「貴様……本気で私とやり合う気があるのなら剣を抜け! 女だからとなめていると──」
「ジル殿」
「……?」
ミロクは突然かしこまって両膝を床に着き、刀を目の前に置いた。
「お願いがござる」
「一体何のつもりだ……土下座ごときで罪が消えるとでも?」
ミロクは覚悟を決めたような顔で口を開いた。
「”ラヴ・クエスト”は、決して悪事など働いてはおらぬ。されど、どうしても手土産が必要と言うのなら、この拙者の首を持って帰れ」
「貴様は一体?」
ジルは、昔耳にしたある噂を思い出していた。
(聞いたことがある……青い髪に隻眼の人斬り……コイツまさか)
「拙者の名は、ミ──」
ミロクが言いかけた時。
さっきの騒ぎで開け放たれていた窓から、リヒトが息を切らして飛び込んできた。
「失礼! 遅くなった! ハァ、ハァ……」
「リヒト殿!?」
ジルは数歩後退すると、槍の切っ先をリヒトへと向けた。
「貴様がボスか?」
「初めまして! みんなの出会いのギルド、“ラヴ・クエスト”代表のリヒトだ」
リヒトは両膝に手をついて息を整えると、ジルの方を見てニヤリと笑った。