第12話 用心棒ミロク
「初めまして! ”マーニャ”さんで合ってますか?」
「はい……“トンヌラ”さんですよね?」
「そうですそうです。まあそんな固くならずに」
ラヴクエを通して知り合ったある男女が、東区7番街の空き地で初めて対面した。
軽く自己紹介を終えると、”トンヌラ”と名乗る男は”マーニャ”の手を引き、目立たない路地へと連れ込む。
その様子を、建物の陰から盗み見る者が二人。
「アイツか……確かに危ないヤツのにおいするな」
そう呟き、目を凝らして夕闇を見つめるのはリヒト。
「路地裏へ入っていくでござるよ」
そしてリヒトの背後に立つのは、ラヴクエの用心棒であるミロクという男だ。
髪は青く、腰には一本の刀、右目を眼帯で隠している。
「ミロク……その変な喋り方、どうにかならないのか?」
「ならないでござる。かたじけない」
彼はかれこれ十年ほど酒場”ビッグハット亭”の用心棒を務めてきた剣士だが、アーウィンの提案により、今はラヴクエの用心棒という事でリヒトに付き従っている。
男女の出会いを扱っている業種柄、何かと問題はつきものだ。
時に発生する暴力沙汰や危険人物を、リヒトはミロクの武力を借りて何とかしているのだった。
そして今回も同様。
実は“マーニャ”はラヴクエの会員ではない。
ラヴクエの場を借りて違法薬物売買をするならず者”トンヌラ”をおびき出すために、リヒトが仕込んだ偽物の会員。
つまりこれは”おとり捜査”である。
「行ったな。追うぞ」
「御意」
トンヌラとマーニャは細い路地を何度か曲がると、古びた小屋へと入って行った。
少し間を置いて、リヒトとミロクもその小屋に忍び寄る。
朽ちた窓枠から中を覗き込むと、地下へ続く階段があるのを見つけた。
「地下室……でござるか」
「突入するぞ。ミロク、用意は良いか?」
「いつでも行けるでござる」
リヒトは階段を駆け下りると、勢いよくドアを開け放った。
「よーう、邪魔するぜ」
「誰だ!?」
中にはマーニャを取り囲むようにして、3人の男が立っていた。
「俺はリヒトだ。トンヌラさんよぉ~、ウチのサービスを犯罪に使ってもらっちゃ困るなぁ?」
「チッ、つけられてたか……!」
「買うと言うまで帰してもらえなかったって、通報が入ったんでな」
「うるせえ。動くな」
男の一人はそう言うや否や、マーニャの襟首を掴んでナイフを突きつけた。
「一歩でもそこを動けば、この女を殺──」
言い終わる前に、男は気を失って倒れた。
その背後には、さっきまでリヒトの脇にいたはずのミロクが立っていた。
「女子を人質に取るなど、言語道断でござる」
「コイツ、いつの間に!?」
残された男二人は戸惑いながら後ずさり、腰からナイフを出してミロクに向けた。
「お、落ち着け、相手は一人だ!」
「死ねおらぁーッ!」
「──笑止」
数秒もしないうちに、二人のならず者は床に伏していた。
ミロクは何でもないような顔のまま刀を鞘に納める。
「安心せい。峰打ちでござる」
(すげえ……刀を抜いたのすら見えなかったぞ)
リヒトは驚愕と感心を顔に浮かべながら、マーニャの傍へ駆け寄った。
「大丈夫だったか? 薬は吸わされてないな?」
「大丈夫だけど……怖かったわよぉ」
「そうだよな。協力してくれてありがとう。報酬を払うから、一度酒場に戻ろう。メシもおごるぜ」
ミロクは泡を吹いて倒れている男三人を担ぎ上げて運ぶと、近くにある衛兵の詰め所の前に転がしておいた。
リヒトはその上に”私たちは違法薬物の売人です”と書いた紙きれを乗せ、マーニャを連れて足早にその場を去った。
これが、かつて”人斬り菩薩”と恐れられた剣士ミロクの現在の稼業。
ラヴ・クエストが誇る、最強のトラブルシューターである。
(幕間 完)
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