四月一日はまだ終わっていない
見た目はまったく同じ、二つの絵画。
だが、絵の鑑定は「見た目」だけではない。科学的な方法も存在する。真贋の見極めは可能だろう。
しかも、世界的名画をいくつも所蔵している美術館だ。目利きのスタッフがそろっているに違いない。
ところが、思ったよりも時間がかかっている。
ニュースを見ている者たちは考える。ひょっとして、美術館にある絵は二枚とも贋作で、本物は盗み出されてしまったとか?
それなら、警察側の現在の動きを犯人側に気づかれないよう、絵の鑑定に手間取っているふりをする、ということもあり得る。
そんな時、「鑑定が終わりました」と美術館の館長が言った。
「信じられないことですが」
テレビの中で話す館長。その表情は非常に険しい。
「鑑定の結果、どちらの絵も『本物』としか」
まさかの発表だった。絵は二枚とも『本物』!?
なおも絵の鑑定は続けるそうだが、
「その真贋を正しく判定できるかどうかは、かなり厳しいでしょう」
そこで奇策に出る。
館長はテレビを通して呼びかけた。
真贋の鑑定ができる人材を求む。この美術館を訪れて、二枚の絵の真贋を見極めて欲しい。
「犯人の覆面男さんたちだろうと、大歓迎です。ぜひ、もう一度この美術館に来て、正解を教えてください。心からお待ちしております」
そして、テレビ画面に表示されたのは、「美術館の入館料金」だった。
この直後に館長が、先ほどまでとは一転、明るい顔に変わる。
「えー、本日は四月一日ということで、普段よりもお得な『エイプリルフール料金』をご用意しました。さらになんと、先着二百名さまには、非売品の限定グッズをプレゼント!」
ここにきての急激な変化だ。これによって、少なくない人々が、この事件の「真相」に気づいた。
どうやら、二枚の絵の真贋が判明するのは、もう少し先になりそうだ。たぶん、今日の日付が変わってから・・・・・・。
四月一日はまだ終わっていない。