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健 留美さんの悩み事

作者: 三木 はじめ

私の部下に(けん) 留美(るみ)と言う名前の女性がいる。


ある日の事、その健留美さんから彼女の結婚に付いての相談を受けた。私は彼女とは仕事上での接点はあるが、それ程、懇意なあいだがらではなく私生活の事はほとんど知らない。


そんな私にまで悩み事の相談をして来るとは近しい知り合いには既に悩み事の相談を持ち掛けてはみたが明快な解決案を誰も提示出来なかったのだろうか?


彼女の話では、中田(なかだ) 大樹(たいき)という名の学生時代からの友達がいるそうだ。仕事は大手商事会社で営業職。彼は来年、ニューヨーク支店駐在の内示を受け以前から好意を寄せていた健 留美さんに一緒にニューヨークへ行ってくれと求婚を申し出たそうだ。


内心、私は思った。大手商事会社の営業で来年はニューヨーク駐在。社内でも勝ち組出世コースの花形エリート社員ではないか。何の問題があるのだろうか?


私は彼女に質問した。「性格の不一致?」

「いいえ。彼とは映画も音楽も食べ物も旅行も服装も好みがほとんど同じです」

「じゃ、性格が悪い? 陰湿? わがまま? 」

「いいえ。性格は素直で明るく裏表がなく周りとも協調性が良く周りに良く気が回る人です」

「酒癖、女癖が悪いの?」

「いいえ。学生時代から知ってますがそんな面はないです」

「ギャンブル狂?」

「いいえ。確率が低すぎると年末ジャンボの宝くじさえ買いません」

「長男?」

「いいえ。次男です」

「怪しい宗教を信じている?」

「まったく、いいえです」

「それじゃ、チビでデブで若禿の不細工男?」

「いいえ。身長も180㎝ありスポーツマンタイプのイケメンです」


彼女の返答に私は内心かすかな苛立ちさえ覚えて「エリートサラリーマンで性格も良く女遊びもギャンブルもせず長身のイケメンの一体どこが不満があるのですか?」


「…」彼女は黙り込んでしまった。彼女は悩み事相談と詐称して自分の彼氏を自慢したいだけなのでか? 近しい知り合いはそれに聞き飽きて相手にしないからとうとう私までお鉢が回って来たのかと思うと彼女へ苛立ちさえ感じてしまった。


「あの…」その時、彼女が口を開いた。「私が彼の籍に入ると私の名前は中田留美。ナカダルミになってしまいます。新婚早々、ナカダルミでは気が滅入ってしまいます」


あッ! そう言う事か! 新婚早々、ナカダルミでは先が思いやられるのは事実だ。なるほど、それは大きな悩み事だと私は内心思った。しばし、私は沈思黙考した。そして頭の上で電球が光った様な妙案が浮かんだ。


私は得意げに言った。「簡単な事じゃないですか? 彼があなたの籍に入ればこの問題は回避できるじゃないですか? 彼に事情を話せば理解してくれますよ」


「いいえ。ダメなんです、それも。今度は彼の名前が健 大樹。ケンタイキになってしまいます。新婚早々、ケンタイキ…」


私は絶句してしまった。ナカダルミとケンタイキ。どちらを選んでも二人には初々しい新婚生活にケチがつくのは避けられない。悩める健 留美さんに明快な助言が出来ない私であった。


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