お星様
この作品はフィクションであり実際の事象や人物、団体名等とは全て無関係です。
それは、ちょっぴり切ない奇跡の物語だった。何度も何度も精霊達はお星様を元の場所へ帰そうと必死になるんだけど、やっと動いたと思ったらお星様が元いた場所がどこにあるのかわからなくなってしまい途中で迷子になってしまうの。
そんな事を繰り返しているうちに精霊達もだんだん疲れてきてしまったので、あの真っ白な浜辺がある惑星に一旦戻る事に。でも、お星様はもう自分の力で輝く事ができそうにない。そう、お星様にも寿命と言うものがあるの。
それで、お星様はまだ微かに残っている力を精霊達に分け与える事にしたんだとか。勿論「私達の事はいいから」って精霊達も一度は断るんだけど、そうしたらお星様はこう言ったの。「その場所はずっと遠いところにあって、何億年をかけても絶対に辿り着かないんだ。このまま燃え尽きてしまう前にまだ残っている力を全部使ってほしい」って――。
「それ、お星様が宇宙を飛び回る意味が全然無くない?」
「もう、そこがいいのに……!」
そう言って、天体望遠鏡を構えるご主人様に向かって私は慌てて講義をする。なんとも夢の無い事を言う人だ。
「例えばお星様が彗星だったらあと数万年は生きられるだろうけど、そんなに遠い場所から落ちてきたならきっと何億光年も先にあるのかもしれないなって」
「わあ、さすがダーリン。すごく詳しいんだね!」
先程まで子供に読み聞かせていた絵本の続きを話しているだけなのに、あまりにも真剣な表情で科学的な話をするものだから思わず笑みがこぼれた。
「これでも本気で宇宙飛行士になりたいと思っていたんだよ。まあ、この望遠鏡も全然使わなくなっちゃったけどさ」
「へえ、私も覗いてみてもいい?」
「はい、どうぞ。精霊さん」
そっと接眼鏡から覗き込むと、そこには数えきれないほどの宝石が暗闇の中できらきらと輝いていた。まるで万華鏡のように七色の宝石が散りばめられた星空をじっと見つめる。でも、やっぱり何も思い出せない。
「あれ、なんだっけなあ」
「ん? どうしたの?」
「あの青い星の名前がどうしても思い出せなくて……」
「それって、もしかしてリゲルの事かい?」
その中でも一際美しく輝く星を見て呟くと、彼がその名を代わりに口にした。
「あれは恒星だからさすがに落ちてくる事は無いだろうけど、多分爆発してその後はブラックホールになるんじゃないかなあ」
「そりゃ本当にお星様が落ちてきたら私達も無事じゃいられないだろうけど、まさかブラックホールになっちゃうなんて……」
「それだけ燃やす材料が多いと打ち上げ花火のようにあっと言う間に燃え尽きちゃうんだ。最後はその重さに耐えきれなくなって光すらも呑み込むブラックホールになってしまうんだよ」
「ええ、そんな……!」
あんなにきれいなのに最後の最後に燃え尽きたと思ったらなんでも呑み込む死神になってしまうなんて、なんだかおとぎ話の世界みたい。でも、この真っ暗な森の中でもし私が道に迷ってもきっと星の光が照らしてくれるから。
「まあ、僕は線香花火のように暗くてもずっと輝き続けている星の方が好きなんだけどね。なんとなく美花みたいだし」
「えー! そうかなあ」
その名を美しい花と書いて「みか」と読む。つい子供の前だと名前で呼び合うのを避けてしまいがちなので、それが自分の名前だと気づくのに暫しの時間がかかってしまった。
「私は例え燃え尽きてしまっても一番輝いているお星様が大好きだよ。それこそ光輝のように」
彼の名を口にしたのはいつぶりだろう。あの空のように青い星も、その上にある赤い星もずっとここにあるのに――。
「そろそろ身体を冷やすとよくないから帰ろうか」
そう言って、彼がかけてくれた上着の暖かさに私は確かな愛を感じていた。それを噛み締めようと上着の襟元をぎゅっと掴みながら。例えこの世界がどんなに過酷でもあの日に願った夢を私はまだ諦められずにいた。




