ペンダント
この作品はフィクションであり実際の事象や人物、団体名等とは全て無関係です。
お家に持ち帰った星の砂を妻が透明のコルクポットに入れると、それを息子がペンダントにした。きらきらと輝く星の砂を閉じ込めたコルクポットの中にはシーグラスも混ざっている。
一つ一つの宝石が集まってできた優しいエメラルドグリーンの海の世界。そこには夢がたくさん詰まっているに違いない。
「ある日のこと。突然お星様が空から降ってきたのです」
そんな手作り感溢れる雑貨に囲まれながら息子に絵本を読み聞かせる彼女。それが僕にとっても心安らぐ時間だった。
今もご両親が営んでいる海の家には彼女が自由気ままに作っている雑貨が並んでいる。昔から手先が器用でよくアクセサリーを作っていたのは知っていたけど、まさかハンドメイド作家になるなんて思わなかった。
いつか星に乗って宇宙旅行がしたい――。どこか非現実的な夢ばかり見ていた女の子が大人になって我が子に絵本の読み聞かせをしている。そう思うと感慨深いものがあった。
「お星様が降り注ぐ夜空の下には、真っ白で美しい浜辺。その柔らかな砂浜が幸いクッションになり、なんとかお星様は無事でした。しかし、そのまま元いた場所へ帰る事ができなくなってしまったのです」
彼女はまた一つページをめくると、更に読み進めていく。その声が心地よいのか息子も大人しくじっと耳を澄ませていた。
「そんなお星様を見て可哀想だと憐れむ精霊達。なんとか元いた場所へ帰そうと引っ張るもぴくりともしません」
そろそろ流れ星が見頃の時期だろうか。真っ暗な月の無い夜空を窓越しに眺める。
「ふふ、無事にお星様も帰れたみたいね!」
いまだにあどけなさを残した彼女がそう言って、今はその子供を愛おしそうに見つめている。いつの間にか我が子も安心しきった表情で眠っていた。
その絵本の続きを僕はまだ知らない。彼女が自分で稼いだお金で買ったものだから。これだけ付き合いの長い彼女の知らない一面を知って驚かされる事がある。そして、僕もまた変わっていくんだ。
「そうだ。星を観に行こう」
「え? 急にどうしたの?」
僕の言葉に彼女は薄茶色の瞳をまん丸くして言った。それと同時に胸元にある三日月の形をしたペンダントがきらりと光る。
「あの時の気持ちを思い出せばきっと何かが変わるはずだ」
今知りたいのは絵本の続きじゃない。僕がそう言って絵本に触れると、何かを察したのか彼女はそれをテーブルの上に置く。
そして、僕達は部屋の明かりを消して静かに外に出た。まだ見ぬ世界を彼女と一緒に探しに行くために――。再び訪れた真夜中の森は少しだけ肌寒く感じた。