エメラルドグリーン
この作品はフィクションであり実際の事象や人物、団体名等とは全て無関係です。
「わあ、星がいっぱいある」
「本当だ。とてもきれいね」
エメラルドグリーンが広がる海。あまりの美しさに思わず目を見開く我が子と、それを優しく見守る妻。
僕もそっと我が子の隣に座り、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだかのような白い星型の砂を手にとる。
「これは星の砂って言う生き物の殻なんだよ」
「え、じゃあ動くの?」
「もう動かないよ」
「……どうして?」
「みんな生命が尽きると動かなくなってしまうんだよ」
それは、静かに打ち寄せる波の音と共に運ばれてくる。そうやって星の砂が集まってできたこの場所を、僕達は星砂の浜と呼んでいた。
「僕もいつか動かなくなるの?」
「そうだね。でも、動かなくなっても消える訳じゃない。今もこの砂がここにあるように」
きらきらと輝く星の砂は、僕の手の中でより一層輝きを増した。
「僕動かなくなるの嫌だ。すごく怖いよ」
「そうだね。きっとみんな怖いから愛を求めるのかもしれない」
「……でも、やっぱり怖い」
どこか脅えた表情を浮かべる我が子を僕はそっと抱き締める。
「別に動かなくなっても痛くもかゆくもなんともないさ。ただ、少しだけ眠りに就くだけだよ」
「……本当に?」
「本当さ。ただ、それまで僕達は今を大事に生きればいい」
「今を大事にってどうすればいいの?」
「この砂浜や海、そして青い空をただ感じるだけでいい。それが生きるって事だから」
「今、僕は生きてるの?」
「うん、ちゃんと生きてるよ」
「そっか。よかった……!」
そう言って無邪気に笑うと、一つ、また一つと星の砂を拾っていく。まるであの時の妻のように――。
そんな我が子を僕はまだ見つめていたくて、いつまでも息子から目を離せずにいた。