プラネタリウム
この作品はフィクションであり実際の事象や人物、団体名等とは全て無関係です。
きらきらと輝く無数の星。僕は彼女と天井に映し出されたプラネタリウムを一緒に眺めていた。
なかなか家族と過ごす時間が作れないからと父が買ってくれた家庭用のプラネタリウム。それを彼女に見せようと大急ぎで取り出したのはいいが、もうすっかり外は暗くなっていた。
それでも、僕の部屋の中は尋常じゃなく暑い。このままアイスのように溶けてしまうんじゃないかと思うほどに――。さすが沖縄の夏だ。
あれからどれくらいの月日が経ったのだろう。お家が隣だからとよく遊びにやってくる彼女といつの間にか二人で会うのが日課になっていた。
真っ白なネグリジェに着替えて我が物顔で僕のベッドに寝っ転がる彼女。お風呂あがりの火照った身体が目につくのはきっとこの季節だからと言う事にさせてほしい。少しだけ露出した肌が日に焼けていた。
「わあ、とてもきれいだね!」
まるで脳内でもプラネタリウムが繰り広げられているかのように彼女は目を輝かせて言った。僕も感動のあまりに言葉が出ない。
ただ、あの息を飲むような光景が目の前に広がっている。たった数秒前まではそこに白い天井があるだけだったのに、とてもそんな風には思えなかった。
そう言えば宇宙が何者かの脳内であると言う話をどこかで聞いたような気がする。それなら宇宙の果てにはいったい何があるのだろうか。
それこそあの世が待っているのかもしれない。本当にこの世界の事は知れば知るほどわからない事が増えていく一方だ。
「もう少しそっちへ行ってもいい?」
そっと僕の隣に座る彼女を見て、そんな自身の考えが吹き飛んでいく。いつも無花果のような甘い香りを纏う彼女に不思議と僕の心は癒された。
「これなら雨の日でも一緒に観られるね」
そう言って、彼女は微かに笑みを浮かべた。その言葉の裏に隠された心を表すかのように大きめの窓のすきま風に揺れるしっとりと濡れた髪。今も小さく開いた窓から錆びた屋根を打ち付ける雨の音が響いている。
僕は自身をじっと見つめる彼女に思わず口を噤んだ。いつも眩しいくらいに輝く瞳が本当にきれいだったから。それなのに僕の心はこんなにも醜くて、そんな自分に嫌気が差した。
「ああ、私もいつかプラネタリウムに行ってみたいなあ」
ふと、彼女がぼんやりと天井を見上げて言った。この島でずっと生きてきた彼女にとって人工的に作られた星空が物珍しいのかもしれない。
「じゃあ、いつか二人で一緒に観に行こうか」
「え、本当に? 約束だよ!」
彼女に差し出した僕の手が震える。それでも、なんとか慣れない手付きで指切りげんまんのポーズを構えた。
そんな僕の様子を見て彼女が笑うものだから期待せずにはいられない。いつか僕達も天国へ行けるんじゃないかって――。この時の僕達は夢ばかり追い求めていて本当の意味で現実なんか見ちゃいなかったんだ。




