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星降る夜  作者: 新名玲紗
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月ヶ浜

この作品はフィクションであり実際の事象や人物、団体名等とは全て無関係です。

 そっと扉を開けると、そこには弧を描くように真っ白な浜辺が広がっていた。私はキュッキュッと鳴き声をあげる砂浜の上を新しいサンダルで歩く。

 お気に入りの白い花飾りのサンダルはもう二度と履く事はできない。それでも、私が振り返ればそこにはちゃんと足跡が残っていた。

 よく見ると、その足跡の隣に人間よりもずっと小さな足跡が続いている。その先には光輝に預けたはずの愛猫がいた。

「あれ、いつの間に……!」

 先程から誰かに見られていると思ったらルナもバレないように気配を消していたみたい。そりゃ気づかない訳だ。

 何かを訴えようとしているのかニャーニャーとルナがすり寄ってくる。私はそれに耳を傾けようとゆっくりと手を伸ばした。

 その瞬間、今目の前にあるものとは明らかに違う映像が脳内に入ってくる。その表現が今自分の身に起こっている事を正しく説明できているのかはわからないけど、まるで夢を見ているかのような感覚だった。

 これを白昼夢と言うのだろうか。今までこう言う不思議な夢を見る事はあってもこんな感覚は初めてなのでその時間が自棄に長く感じた。


「……お義母さん……」

 ふと、誰かの足が見えた気がした。あまりにも一瞬の出来事ではっきりと見えた訳じゃないけど、ついとっさに出た一言でやっと我に返る。

 あれは確かに光輝の母親の足だった。いつも爪の先まで美しく着飾るお洒落な女性なので間違いない。

 この髪色のせいか昔からギャルだとからかわれる事が多くて、よく光輝のお家にお邪魔する時は女の子らしいワンピースを着ていた。私も彼女のような素敵な女性になりたかったから。

 きっとそれでこんな白昼夢を見ただけだ。それにこんな話をされたら光輝だって気分が悪くなるだけだろう。

 私は沖縄県西表島に生まれ、その北部の月ヶ浜で育ってきた。もう女らしさなんて気にしない。私は私だから。


「いらっしゃいませ。今日から海開きですよー!」

 さあ、そろそろ開店の時間だ。真っ黒な招き猫さんをお供に――。この体質のせいで気味悪がられる事もあるけれど、やっとハンドメイド作家としてスタートを切ったんだ。

 なんでも宝物のように集めたがるところは母曰く父親とそっくりらしい。その証拠に本が大好きだからと父が集めた古本がテーブルの上に並べてあった。

 まだ客の入りも少ない。私はその中に埋もれているいかにもな雰囲気が漂うあの絵本をそっと手にとる。

 それを静かにめくると、まるで魔法陣のような絵がアクリルの絵の具で描かれていた。私は更に読み進めようと一つ一つ言葉を紡いでいく。

 そうやって今日もおとぎ話の世界を彷徨うのだろう。朝凪の中で穏やかな時間がそこには流れていた。

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