流れ星
この作品はフィクションであり実際の事象や人物、団体名等とは全て無関係です。
それは、星のきれいな夜だった。静かな夜の空に輝く無数の星は手を伸ばせば届きそうなほど近くに見えた。あまりの美しさに僕は一瞬で目が離せなくなる。
こんなに美しい光景はいまだかつて見た事が無い。この世界にはまだ僕の知らないものがたくさんあるんだと思った。
僕はいつまでもその光景を見ていたかったけれど、ふと何か黒い影のようなものがちらりと視界を掠める。
目の前に現れたのは、黄金色の瞳をした真っ黒な子猫だった。赤い首輪につけられた小さな鈴がチリンと澄んだ音色を奏でる。どこかの迷い猫だろうか。
「ねえルナ、どこにいるのー?」
真っ暗な森に木霊する人の声。僕はカサカサと物音のする方へ目を向けた。柔らかな青白い光が生い茂る木々の間から差し込む。
「やっと見つけた……! もう、探したじゃない」
漆黒のコットンに月下美人の花を咲かせたワンピースに、ふわりと風になびく栗色の髪。先程の声の主と思われる女の子が顔をほころばせながらこちらへ駆け寄ってきた。
「あなたが見つけてくれたの? ありがとう」
「いや、僕は何もしてないよ。君の方こそ一人でこんなところまで探しにきたの?」
「うん、だって私のお家すぐそこだもの」
こくりと頷きながら彼女はそっと子猫を抱き上げる。
「あなたはどうしてここにいるの?」
「それは……星がきれいだったから」
そう言って、僕はぼんやりと夜空を見上げた。彼女もそれにつられるかのように上を見やる。
「こんなにきれいな夜空を見るのは初めてなんだ。このまま朝なんてこなければいいのに」
「……どうして?」
「僕はこの島に引っ越してきたばかりだからさ。まだ友達もいないし」
ふと視線を隣に移すと横にいる彼女と目が合う。そして、無邪気に笑いながら彼女は僕に手を差し出した。
「じゃあ、私がお友達になってあげる」
それは、まるで月のように明るく優しい笑顔だった。
「……どうして初対面の人間にそんな事が言えるの?」
「うーん、あなたと仲良くなりたいからって言う理由じゃだめかな」
こてんと首を傾げる彼女に僕はただ困惑する。そんな僕の心を知ってか知らずか、きらりと何か夜空に光るものが見えた。
「あ、流れ星だ!」
彼女が指を差して言う。何かを必死にお願いする彼女を見て僕はぽつりと小さく呟いた。
「別にいいよ。君と友達になっても」
僕がそう言うと、彼女は誰よりも眩しい笑顔で言った。
「うん、これからもよろしくね!」