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第1話
「刺されなかっただけ、良かったと思った方がいいよ。」
「刺されたとしても、不思議だとは思わない。」
ついこの前、父に言った言葉だ。
成人した女が、年老いた父に言った言葉だ。
思い返すと、幼いころから父に親しみを感じたことはなかった。
兄や妹ともども、殴られ、怒鳴られ、そのような記憶ばかりで、街中で親子が仲良く買い物をしている姿を見かけると、つい立ち止まって眺めてしまうことがある。
私とその兄妹は、家族というものを知らずに大人になり、そして、形だけの、戸籍上だけの家族が今ここに解散したのだ。
これからは、それぞれの道を歩み、決して後ろを見ない、引き返さないと誓って。