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マッチョ売りの少女 

作者: 青水

「マッチ、マッチはいりませんか?」


 雪が降りしきる大みそかの夜。

 とある街の路上で、みすぼらしい格好をした少女が、道行く人々に声をかけています。しかし、誰も彼女のマッチを買ってくれません。


「どうして、どうして……誰も買ってくれないんだろう?」


 少女は呟きました。

 周りを見ると、彼女以外もマッチを売っている少女がたくさんいます。ここはマッチ売りの激戦区。マッチの名産地であり、観光地でもあるので、こうしてたくさんの少女がマッチを売っているのです。

 小さな、かわいらしい少女がみすぼらしい格好でマッチを売れば、大人たちは買ってくれるのです。大人たちのカバンの中には、少女たちから購入したマッチがたくさん入っています。


「どうして私だけ、こんなに売れないんだろう……?」


 彼女以外の少女は、人気に差はありますが、みんなマッチが売れています。しかし、彼女はまだ一本たりとも売れていません。


「前より、売れない……」


 少女は泣きそうになるのを必死に堪えました。前に街に出たときは、多少は売れたのです。


 少女は決して美人ではありません。他の少女より発育がよいので、大人びて見えるのです。他の子にはない強みを持たなければならない、と少女は思いました。強みがあれば、マッチがとぶように売れると思ったのです。

 自分の強みとは何なのだろう、と考えた結果、発育の良さだと気づきました。少女は他の少女と比べて四頭身ほど背が高いのです。ただ背が高くても意味はありません。


 そこで、昔、街中で開催されていたボディビル大会のことを思い出しました。マッチョな人を見て、周りの人々は沸いていました。マッチョは人気があるのです。

 マッチョになれば他の子と差別化できる、強みになる、と考えた少女は必死になって鍛えました。少女には才能がありました。あっという間に筋肉がついて、マッチョになったのです。マッチョになると、自分に自信がつきました。これなら、マッチがとぶように売れると思いました。

 しかし――。


「売れない……」


 ムキムキの鍛え上げられた肉体に、小さな子供の顔が載っているのは、なかなかに恐怖なのです。違和感がすごいのです。彼女のマッチを買おうとする者はいません。


「ううっ……寒いっ……」


 少女の肉体には無駄な脂肪がなく、それどころか必要な脂肪すらないので、人一倍寒さに弱いのです。少女は暖まろうと思い、マッチに火をつけました。

 マッチに火をつけると、暖かさと共に、幸せな幻影が見えました。白いテーブルクロスがかかったテーブルの上に、ささみとプロテインドリンクと卵がのっています。とてもおいしそうです。しかし、マッチの火が消えると、その幻影も消えてしまいました。


 もう一度マッチを擦ると、今度はクリスマスツリーを模した筋トレグッズが見えました。少女はそれで上腕二頭筋を鍛えます。そして、その後すぐにスクワットをしました。しかし、すぐに幻影は消えてしまいました。


 何度も何度もマッチを擦ります。そのたびに幸福な幻影がみえました。しかし、それは幻影であり、現実ではないのです。

 現実ではなくても、少女は幸福でした。


 マッチを使い切り、寒さと空腹が少女に襲い掛かります。少女は壁にもたれかかって、ゆっくりと目をつぶりました。

 目をつぶったのに、視界は太陽よりも明るい光で満ち満ちています。やがて、寒さも空腹もなくなり、眠くなりました。


 朝になると、少女は動かなくなっていました。人々はマッチョの少女が死んだのを見て、マッチを買ってやればよかったなどと思いました。


「この子は寒さのために死んだのかな?」

「いや……ストイックに筋トレをし続けて、栄養失調で死んでしまったんだ。見てみろ、体脂肪がほとんどまったくと言っていいほどない」


 その後、人々は少女の死を悼んで、マッチョ少女の像を建てました。その像は今でも、少女がマッチを売っていた場所に建っています。






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