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62話 アドルフをめぐるたたかい

「まあまあ、さすがは勇者さま。この程度では問題にすらならないわ」


 エヴァンジェリンが嬌声をあげるなか、タロとガロンが互いに大きく跳躍した。

 空中で牙と爪が激しくぶつかり合い、そうして爆ぜるようにわかれて離れる。


 そこからタロは追撃のかまえを見せたが、ガルムのほうが飛下がってエヴァンジェリンの脇につく

 見れば、エヴァンジェリンが手を挙げて合図し、ガルムを退かせたように見えた。


 ガルムは最初に見たときには好戦的に振り切った様子だったが、今はある程度エヴァンジェリンの言うことを聞いているように見える。


 アドルフも床をみつめたまま、ゆっくりと歩いてエヴァンジェリンのほうへ向かった。


「リンネ、頼む」


 エヴァンジェリンが動かないのを見、おれは叫ぶようにそういう。

リンネと、それからシャロが駆けだしてカイロのほうへ向かった。

 俺はそちらに後ろ髪引かれながらも、アドルフが現われた小部屋の方へと走る。


 吹き飛んだ扉の中は一見してひどい有様だった。

 冒険者、黒ずくめの敵ともに区別せず、戦闘職に見える者たちは、残らず手傷を負って先頭不能に陥っている。外傷は切り傷が最も多かったが、打撲や、魔法をうけたらしき者もいる。


 驚くべきだろうか。数は少ないが、何人かのヒーラーは皆無傷で、必死に治療にあたっていた。


「すまない。こちらはもう戦闘に復帰はできなそうだ。幸い致命傷を負った者はいないようだが……」


 青白い顔をして寝かされているベテラン冒険者が俺に向かってそういった。

 彼の治療も、なんとか間に合ってはいるようだ。


「あいつ、いきなり現われて立ち向かってくる奴をなで切りにしていきやがった」


 聞けば、切り捨て、戦闘不能になった者はそれ以上追い打ちせずにうち捨てていったらしい。

 はじめから攻撃をしなかったヒーラーは、アドルフの狙いの対象外であったようだ。

 ヒーラーたちが、大丈夫です、とうなずくのを確認して、俺はアドルフたちへと向き直る。


「アドルフ、どうして、なんでこんなことを?」


 呼びかけた先で、アドルフはやはり下を向いたままで、なにも答えはしなかった。

 やはり、彼はなにかおかしかった。オーウェンが言っていた、喪心というのはほんとうなのだろうか。


「アドルフはね。ガルムさまを呼び出して、とーってもお疲れなのよ。それでもけなげにパーティーのために戦ってくれる。まさにリーダーのかがみじゃなくって?」

「あなた、そんながらじゃないでしょ?アドルフ。ほんとうに、どうしたの?」


 エヴァンジェリンが言うのに、リンネが大きな声で返した。

 付き合いの長い彼女から見ても、やはりアドルフは尋常ではないらしい。


「あら、勝手にパーティーを抜け出したのやら、クビになったのやらがやいのやいのうるさいわね。ねえアドルフ、そろそろ、あのひとたちいらないんじゃないかしら?」


 その言葉にも、アドルフは動かない。

 自分の言葉を無視されて、エヴァンジェリンのこめかみがぴくりと動いた。


「もう、じれったいわねえ。そら、アドルフ、ロッカよ。あなたの憎いあいつがそこにいるの。あなた、許せるの?あなたの名声を奪った、あの男が!」


「ちょ、なにをいうのよ、あの女!」


 なにか言葉にする前に、リンネが俺に先んじた。


「そこで待ってなさい、今……」

「あ、う、ロッカ、ロッカぁぁ!!」


 続けようとしたリンネに、アドルフのうめきに似た声が重なる。


「そうよ、ロッカよ。さあ、やってしまいなさい、アドルフ!」


 来る、と俺は直感した。


「タロ、ガルムの牽制を頼む」


 タロがわふと応じるのを見て、俺は抜刀して構えた。


「リンネ、シャロ。もうこうなったらアドルフを征するしかない。援護をお願い!」

「わかったわ」

「たぶん、エヴァさんも仕掛けてきます。気をつけて」


 俺はうなずいて、アドルフへと向き直った。


 が、


 アドルフはすでにそこにはいない。


「ぁぁぁぁぁぁああ、ロッカぁぁ」


 もう、どうみても正常とはいえない叫びをあげながら、アドルフが弧を描くように駆けてくる。

【暴走特急】?いや、ああいう動き方をされては、真っ直ぐに進むこのスキルでは狙いをつけるのは難しい。

 正気にはみえないアドルフだったが、その戦闘センスは失われていないようだ。


 なら


 俺はしっかりと足をふんばって、迎撃の体制をとる。

 オーウェンから譲り受けた剣がダンジョンの火に照らされて、清冽な輝きを放った。

 不思議と、手になじむ剣である。今、命を預けるには充分な感触だった。


 走りながら、アドルフは無造作に剣を振り上げた。

 彼はもう叫んではいなかったが、その目には暗いものが宿って見える。

 アドルフ、こんなになって。


 走馬灯のように、アドルフとの思い出がよみがえってくる。確かに、良い思い出ばかりではなかったけれど、それでもかつてのアドルフは、勇者として、それにふさわしい輝きを放っていたはずだ。


 それが、いまやこんなとことで、邪神の側に立ち、俺なんかに対して激高して斬りかかってきているのだ。


 こんなアドルフは、もう見たくはなかった。


 小さく飛んで、体重をかけた一閃が、右斜め上から俺へと降る。

 躱す選択肢は、はじめからなかった。


 前へ!


 踏み込んだ一歩が、アドルフの目測をわずかに狂わす。

 

 ギリ、とどちらかの刀身が欠ける音がして、アドルフの剣はそこで止まった。


 今!


「【暴走特急】」


 零になった距離と、斬撃後の硬直時間。

 絶対必中の隙を貫いて、俺の突進スキルがアドルフを直撃した。

 

 


「面白かった」


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「作者がんばれ」


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