31話 パーティーに加入志望の女の子の、話しを聞いてみました
シャロが頬を膨らませる様子は、横から見てもかわいく思えた。
けれどもそれはリンネ相手には通用しないようだ。
リンネは冷たい目をしながら、黙ってシャロから視線を切らない。
俺や、同席しているオーウェンまでもがごくりとつばを飲み込む中、シャロはしばらくして観念したように大きく息を吐いた。
「わかりましたよ。説明します」
彼女は諦めたように表情を崩し、続ける。
「もう、知っているんですよね、あそこがどういうところかって」
俺はきかれてうなずいた。
「成功した冒険者をつれてきて誘惑して、いろいろさせちゃうとこなんですよ」
そうして、彼女はふふふと笑う。
「わたしが、給料に惹かれて、ふつうの店員として雇われたのはほんとうです。お店に来た冒険者の相手をしてあげて、それからは他の人のお仕事」
俺やオーウェンに目をやって、彼女は続けた。
「冒険者のひとって、すっごくちょろ・・・・・・単純なんです。強かったり、優秀だって言われている人だって、簡単に堕とされちゃう」
そうなのだろうか、と俺は思った。
そんな俺をシャロはもういちどしっかりみた。
「そんなだから、もしかしたらわたしにも簡単にだませちゃうんじゃないかって、そう思ったんです」
お金が必要だったんです。と彼女は言った。先ほど聞いた、妹のためだろうか。
「俺のところに来たのは、組織の命令じゃなかったってこと?」
「そう、ですね。組織として積極的に動くのは、もうちょっとおおきく成功した冒険者を、狙うことが多いみたい」
「じゃあ、なんで俺みたいのを?」
「組織とターゲットがかぶるのは、さけないといけませんからね。ロッカさんくらいの立場のひとを狙うのが、ちょうどよかったんです」
絶句する俺を、リンネが引き取った。
「ロッカくらいの冒険者は、まだほかにもいたはずでしょう?そのなかから、彼をえらんだのはなぜなのかしら?」
彼女は俺から目をそらす。そうしてすこし考える様子をみせた。
「だましやすそうにみえた、とか?」
リンネは俺に、容赦がなかった。
「単純で、馬鹿・・・・・・いいひとそうに見えた。そんなところですかね」
なんのフォローにもなっていない返しを、シャロはした。
「ロッカさんがどうこう、ってわけじゃないんですよ。冒険者なんてみんな、すこしくらいひどい目に遭っても、当然じゃないですか?」
誰もそのひと言には同意しない。
彼女以外の皆が冒険者なのだから、あたりまえのことではあった。
「君は自分が悪いことをしかけた、という意識はあるのかね?」
それは、まあ。と彼女は言った。
オーウェンは大きくうなずいて、続ける。
「なるほどの。今いったことが間違っていないとして、もう少し聞きたいこともある。次はギルドで、というのが筋かと思うが?」
シャロは俺の方を見た。俺の同席を望んだのはシャロだったけれど、俺の戸惑いの表情をみてか、諦めたようにくびをふる。
「もう、いいですよ。おともしなきゃ、すまないんでしょ?」
「シャロくんの行為が罪になるかといえば微妙なところじゃな。なに、悪いようにはせんよ」
「わかりました。そういうことなら、もうここで話すことはないです。少し休んでも?」
オーウェンはうなずいた。
シャロは寝室へと続く扉を確認すると、そちらの部屋へと移動する。
オーウェンの目配せで、ギルド員があとへと続いた。
「ひとつ、きかせて?」
隣の部屋へと扉をくぐろうとするシャロに、リンネが声をかける。
「病気のお母さんがいるって、ほんとうなの?」
「嘘ですよ。お金が欲しいのはほんとうですけど」
言うと、シャロはこちらを振り向かずに寝室へと消えていった。
「彼女は、なにか罪にとわれるんですか?」
俺が聞くのに、オーウェンが答える。
「それはないじゃろうな。いまの発言でなにかあるとしたら、それこそロッカくんがだまされたと告発でもしたら別なのじゃろうが」
「それなら、ちょっとかわいそうな気もします。」
「実際に組織で働いていた彼女の発言は、重要になる可能性があるからの。あいてはなにしろ剣呑な組織じゃ。彼女を保護する、という意味でもだれかの目に届くところにいてもらわんと、の」
俺は彼女が消えていった扉を見た。
少なくとも、彼女はわるいひとにはみえなかったのだけれど。
「ちょっと話をさせてもらってもいいですか?」
「彼女と、かね?まあとめる理由はないが、おすすめはせんな」
「やめておきなさい。ああいう手合いは、相手にするだけあなたの損よ」
オーウェンが話すのにくい気味に、リンネが続いた。
俺はもうひととき考えた。最初の出会いはともかくとして、やっぱりわるい娘には思えなかった。
「やっぱり、ちょっと話してくる」
リンネは処置なし、という顔をする。
「もう、ロッカはへんなところで頑固なんだから」
その言葉に送られるように、俺は寝室へと歩み出た。
―――――――――
俺が寝室にはいると、シャロは何かの紙を見ながらうつむいていた。
俺に気がついたのは控えていたギルド員ばかりのようで、シャロは紙から目を離さない。
ギルド員はほんとうに監視するだけが目的のようで、窓枠に体をあずけたまま、俺には声かけることなく静かにしていた。
「シャロ?」
声をかけると、彼女はびくっとしてこっちをみた。
それからあわてて紙をたたんでポケットにしまい込む。
「シャロはこのままでいいの?」
彼女は俺を見て、なにを聞いているんだ?という顔でため息をついた。
「いいわけはないですよね。でもしょうがないです」
しばらくの間、無言が続いた。彼女は自分から俺と話す気は、ないようだった。
「もしかして、冒険者になにかされたの?」
浮かんだ疑問を、俺は彼女にぶつけてみる。
シャロは聞かれて嫌そうな顔をして、もう一度、ため息をついた。
「わたしも、こうみえて冒険者をやってたこともあったんです」
「そうなんだ、じゃあ・・・・・・」
「思い出したくもない、最悪の思い出なんですけどね?」
シャロは吐き捨てるようにそういった。なにかよほど、ひどいことがあったのだろうか。
だとすれば、彼女が冒険者を憎むようなふうなのも、そのあたりに理由があるのかもしれない。
「だから、冒険者はもうこりごり。それであそこで働いていたんですよ。お金がいるんです。ほんとうに」
ぽつり、と彼女は言った。
「でもああいうのは、うまくいかないものなんですね、ほんと、失敗したなあ」
「その絵、だれかにもらったの?」
さっきまで、彼女が見ていた絵のことが気になった。
ちらりとみた限りでは、落書きのようにも見える、決してうまいとはいえない絵だ。
いや、あれはむしr
「みられてましたか。ほんと、しょうがないひと」
「お金が欲しいって、もしかして・・・・・・」
彼女は何度目かのため息をついた。
「ちなみに、母はもう大分前に死にましたよ」
シャロは少しおどけたように言う。
それでも黙っている俺に、彼女はうつむいて
「妹が、いるんですよ」
と小さく絞り出すような声で言った。




