15話 パーティーを結成しました
ダンジョンの入り口まであと少し。
二層と一層の間にもうけられたセーフゾーンで、リンネが
「座らない?」
と口に出した。
彼女はまだ足を引きずってい、みためにも大変そうだ。
輪の中へ消えていったドラゴンを送り出して、俺たちはダンジョンを脱出している。
怪我をしているリンネは、いっそ俺が背負って運びたかった。
が、タロのバフが切れた冒険者が気を失って倒れてしまい、今は俺の背中は彼で埋まっている。
タロはといえば前衛で大暴れしてもらわなければならない都合上、彼女を乗せて運ぶことはできなかった。
そういうわけで、リンネは自力で上層を目指すことになっていた。
「ごめん、気がつかなくて」
「ちがうわ、そうじゃないの」
俺が先に座るように促して、リンネも隣に腰掛けた。
「ここを出ちゃうと、多分いろいろ面倒なことが待っていると思うの。そうしたらゆっくり話せないじゃない?」
リンネはそっと、怪我をしている足をなでた。
「これでも、元B級冒険者よ。このくらいの困難なら、何度か経験したことはあるわ」
「C級にされちゃったんだよね」
「アドルフのところくらいの大規模パーティーを抜けると、そういうこともあるみたいね」
リンネは顔を寄せて、ささやくように言う。
「あなたも、アドルフのところを抜けたのよね。それもタロちゃんといっしょに」
「抜けた、というかクビになったんだよ。タロはその時に、退職金がわりにもらったというか・・・・・・」
「タロちゃん、あんなに立派になって。びっくりしたわ」
リンネにそう言われて、悪い気はしなかった。
「だろ。タロは凄いんだ。この前だって・・・・・・」
リンネは人差し指で、俺が続けようとするのをとめた。
「あなたも、凄いわ。助けてもらって、本当に感謝してる」
「それは、タロが・・・・・・」
「あなたも、よ」
「そうかなあ」
「そうよ」
「そうかなあ」
「そうなのよ」
言って、リンネはふわりとわらいかけた。
俺は・・・・・・
のし、っと
俺とリンネの座る間に、もふもふとしたものが差し入れられる。
大きなタロの右足は、そのままずりずりとリンネを脇に押していった。
自分が入れるほどの空間を確保すると、タロはとす、と腰を下ろす。
「タロちゃん!あなたにも、ありがとう」
リンネが声をかけるのをタロはしらんふりをして、俺の頬をぺろぺろなめた。
「もう、あいかわらず冷たいんだから」
リンネは寂しそうにそう言った。
それから、あらためて俺の方を向いて言う。
「ねえ、私たち、パーティーを組まない?」
「俺と、リンネが?F級とC級、それじゃ釣り合わないんじゃ」
さらに言えば、リンネはすぐにB級へと復帰するだろう。
「もう、あんなことをしたひとが言うせりふじゃないわよそれ」
「リンネがいいっていうなら、いいけど。なんたってパーティーリーダーはリンネなんだし」
リンネのパーティーなら、さぞかし華やかになるだろう。
ほかのメンバーも、優秀な者がすぐにあつまりそうだ。
「なにいってるの?あなたのパーティーにわたしが加わるよ」
決まってるじゃない。と彼女は言った。
それから、いきましょうとばかりに手を差し出す。
タロが今度は鼻先で、その手をぺし、とはたき落とした。
―――――――
ギルドに帰りつくと、ギルド員は俺を待つ人であふれていた。
C級冒険者たちも気まずそうにその中にいる。
医者の元へ担ぎ込まれたリンネと怪我をしていた冒険者、それからタロはいつものように同行してはいない。
俺は人波をかきわけて受付に向かった。
「まさか、ドラゴンの元から生きてみなを生還させるとはな」
サブマスターが心底驚いた顔をして俺を迎えた。
運がよかったというか、パートナーが優秀なんです。
「あとで一席設けている。ギルドマスターも顔を出すから、ぜひそこで話を聞かせてほしい」
サブマスターの話が終わると、俺は人に包まれた。
「仲間をありがとう」
「凄いな。F級なんだって、まじかよ」
「ロッカさん、是非サインください」
C級冒険者たちをはじめとして、たくさんの冒険者が俺を囲んでいた。
元々初心者、初級冒険者が多い土地柄だ。
俺くらいの活躍でも、彼らが興奮してしまうくらい珍しいことなのだろう。
「ロッカさん、その手に持っているのはもしかして」
そんななか、受付嬢はいつものような態度だった。
「うん、パーティー結成の手続きをしたくて」
「拝見しまーす。えっと」
「ロッカさんに、リンネさん。あら、あのかたとパーティーを組むんですね。えっと、それから、タロさん、ですか?」
書き間違いではなく?という受付嬢に、俺はうなずいて見せた。
受付嬢はサブマスターに書類を示す。
「タロ、というのはロッカ君のテイムしているモンスターというわけか。ううむ」
「あの、ロッカさん。タロさんは」
ギルドで結成するパーティーに、テイムしているモンスターを加えてはいけない、という明確な決まりがあるわけではない。それはむしろ常識の範疇だからだ。
だからこそ、しれっと押し通れるかもしれないとおもってタロのことを書いたのだが、ことはそううまくは運ばないようだ。
「テイムしているモンスターはパーティーメンバーとしてはみとめられない。決まりではないが、前例がないからな」
言って、サブマスターはこちらをみた。
俺は真剣な顔で見返した。タロは俺のテイムしたモンスターってわけじゃない。はっきりと仲間だっていえるんだ。
俺の行為が、冗談からきたものではないと伝わったのか、サブマスターは目をそらして下を向き、考えるようにした。
「ヒューマン型であれば、まだ可能性が。いや、その手はつかえないか。ううむ・・・・・・」
真剣に考えてくれている様子はみてとれた。それでも無理なら、いっそパーティー結成はあきらめようか。
パーティーを結成しなくても冒険はできる。そのあたり、リンネと相談して出直そうか。
俺がそうおもい始めたとき、サブマスターは顔を上げた。
「あーなんだな。君、」
「あ、はい、わたしですか?」
呼ばれた受付嬢が答える。
「君は、よく書類を汚す。そうだったな」
「そうですねすみません」
受付嬢は、いきなりなんだという顔をしながらもとりあえずそう答えたようだった。
「この前も、飲み物をついこぼして、濃いシミをつくった。んだったね?」
受付嬢がなにごとか反論しようとするのを手で制して、サブマスターは俺の提出した書類を受付の卓に置いた。
「今回の提出された書類も、このあたりをちょっと汚してしまうこともあってもおかしくないのじゃないか?」
サブマスターはいきなりあらぬ方向を見やり、薬指の先でちらりと、パーティーの種族欄を指している」
「私も最近忙しいのだ。書類が汚れているせいで、普段見ることの少ない種族欄など、見逃してしまうことがあるかもしれないなあ」
受付嬢はあさっての方向を見ながら、手に持っていたカップをわずか傾けた。
ぽたり、とこぼれた濃い色の飲み物は、たまたま提出した書類の上にシミを作る。
「まあたいへん、今日の書類の提出期限がせまっているわ。はやく上司にみてもらわなくっちゃ」
それを受け取るなり、サブマスターは視線でさらりと左右に洗う。
「最近忙しくて目がかすむ。ざっと見た限りでは問題ない書類だ。これはさっさと許可してしまおう」
「そうですね」
受付嬢の声にあわせて、サブマスターはわきにおいてあった許可印をぽんと押した。
「おめでとうございますロッカさん。他三名のパーティー結成です」
ぱちぱち、と受付嬢は手をたたいた。
まわりで見守っていた他の冒険者たちも、つられてぱちぱち拍手をする。
やがてそれはギルド中に広まっていった。
「ありがとうございます」
喧噪の中、俺はサブマスターに向かって言った。
「当然の書類手続きだ。なにを感謝されているのかはわからないな。まあ、ロッカ君のやったことはそれくらい価値のあることだった、ということかもしれないな」
サブマスターはにやりとわらう。
祝福の拍手はいつまでも鳴り響いていた。




