第3話「ピースメーカー:ファニングショット」
適当に書いてたら長くなりました。僕のピースメーカーは短いまんまです。
「やっと着いたー疲れたねー」
「ああ、そうだな……」
あれからずっと考えている。どうすればこんにゃくを入手できるか。
「(買うほどの金はない。何しろ働いていないからな……盗むか?いや、バレた時のリスクが大きすぎる。)」
アパートに帰るまでの15分。散々考えながら得た答えが――
「(働くか……)」
「何考えてるんだい?」
「いや、別に何も?」
あまり悟られたくない。買ったのがバレた瞬間俺は修羅と化す。だから決して悟られるわけにはいかない。
「それより、料理の準備をしなくていいのか?」
「んー、それもそうだね。」
注意を反らせて良かった。こんにゃくの話題を出されたら反射的に抜いてしまうかもしれない。
「じゃあ、僕の部屋に行こうか。すっぽん捌くから後処理お願い!」
「あら、おかえりなさい。すっぽんは買えたの?」
「あ、ママミさん。いつもお世話になってます。」
彼女はママミさん。あまりこのアパートで交流を持っていない俺だが、その中でもかなりお世話になっているお隣さんだ。凄く素敵な方で婚約者も既にいるらしい。まだ子供もいないのに溢れる母性は抑えられていない。
「そんないいのよー私も力仕事とかいつも手伝ってもらってるんだからお互い様です!」
「いえいえ、俺もオカズとかいつも貰ってるんで感謝が尽きないですよ。それより、一緒にすっぽん捌きませんか?」
唯一、俺がまともに世間話をできるのはこの人だけだ。他のアパートの住人とは挨拶を交わす程度だし、もう一人、多少話す人間は俺の事を睨んでいる。
「なあ、何で睨んでるんだ?」
「……なんでママミさんには敬語なの?」
――一瞬、理解が及ばなかったが、納得した。つまり、敬語を使われない理由を説明すればいいということだな。
「あー・・・・・・溢れる母性?」
「・・・・・・もういいです!すっぽんはママミさんと捌きます!江口君は外で待ってなさい!」
グワっと捲し立ててくると、チラットはママミさんと一緒に部屋に行ってしまった。
「(なんで、お母さんみたいな口調だったんだ?)」
「おやおや、アパートの管理人様を怒らせてしまうとはな。君の立場も危うくなるのではないか?」
「神父さん・・・・・・どうしたんですか藪から棒に?」
突如現れたのは、死体の処理を押し付けられたこのアパートの住人の神父。因みに名前は知らない。
「なに、死体を処理させられた代金がまだなのでな。君から代金を搾り取ろうと思ったまでだ。」
「そうは言っても、俺、金なんて持ってないですよ。」
「ああ、心配は無い。君が私にくれるのは体だけでいい。」
――は?どういうことだ?同性愛者?まずいな……初体験より先に初体験させられそうになるとは思っていなかった。
「ごめんなさい。俺、そういう趣味ないんで、お金で解決していいですか?」
「……何を勘違いしている江口誠志。君には私の登山に付き合ってもらいたいだけだ。」
しまったな……野外プレイも俺にはきつい。しかも相手は神父もとい山男と来たものだ。俺の処女は確実に持っていかれるだろう。
「場所の問題とかじゃないですよ。とにかくお金でいいですか?」
「はぁ……森の先にある山は知っているな?今からそこで宝を掘り当てたいと思っているんだ。私もなかなかの歳だからな。若い者の力が望ましいのだよ。」
参ったな……場所どころかシチュエーションにもこだわるとはとんでもない変態のようだ。俺を宝に見立てて掘るとは、なかなか乙な趣味をしている。相手が俺ではなかったら褒め称えていただろう。
「俺はあなたの宝ではないですし、掘られる気もありません。お金じゃダメなんですか?」
「分かった。分かりやすく言おう。金銀財宝を掘り当てたいから一緒に堀りに行ってくれ。」
む。宝というのはそのままの意味だったのか。だったら最初からそう言えばいいものを・・・・・・
「何だ、最初からそう言ってくださいよ。でも今から行って時間大丈夫ですか?」
「問題はない。今の時刻は18時。長く見積もっても1時間半で帰ってこれるだろう。」
「そうですか。でも安心しましたよ。俺、神父さんの事同性愛者だと勘違いしてました。」
「ハッハッハッ」
・・・・・・乾いた笑いが何故か恐怖を呼ぶ。まるで、俺に何か報復しようという気持ちが感じられる。
「無駄な時間を過ごしたな。待っていろ。少し準備をしてくる、そのついでに管理人様にも話を通しておこう。」
「了解です。待ってます。」
会話を終えると神父はチラットの部屋に入っていった。
「(金銀財宝・・・・・・興味がないと言えば嘘になるな。」
自分の物になるわけではないが、それを見れるだけでも価値がある。
「待たせたな。それでは行こう。」
神父がかなり大きめのリュックを背負って帰ってきた。神父がこんな装備をしているのに俺は手ブラで大丈夫なのか?
「問題はない。君はあくまで私の護衛だ。むしろ身軽の方がいいだろう。」
なるほど。それなら納得だ。
「分かりました。それじゃあ行きますか。」
「うむ。」
そういえば、一つ聞かなければいけなかった。
「神父さん、名前は何て言うんですか?」
「む?君が呼んでいる通りだが?」
「え?どういうことですか?」
「私の名前は神父だ。まさか、知らなかったのか?」
・・・・・・驚きだ。名が体を表すとはよく言うが、この神父はまさにその体現者と言えるだろう。
「……失礼しました。」
「……この短い時間で、君に対する印象がかなり変わったよ。戦いの腕の方は問題ないといいがね。」
色々と悪態をつかれながら、俺たちは鉱山を目指して歩き始めた。
「ところで君は、あの山の名前や伝説を知っているか?」
「そんなのがあるんですか?ぜひ聞かせてください。」
別に聞きたくはないが、これ以上この神父と無言で歩き続けるのは精神上きつい。
「いいだろう。あの山の名前は「陰歩山」という。この島ができた当初から存在している山だ。」
「へえ、あの山そういう名前だったんですね。それより伝説の方教えてくださいよ。
「フッ、そう焦るな少年。山には2つ伝説がある。有名なのはあの山は絶対に噴火しないということだ。」
絶対に噴火しない?もしかして……
「インポだからですか?」
「察しがいいな。その通りだ。そしてそれが名前の由来でもある。」
「なんかそのまんまですね。もう一つって何ですか?」
絶対に噴火しないというのは正直どうでもいい。今一番知りたいのは宝が何なのかだ。
「もう一つは、この島に昔魔王がいたという話だ。そして、この島の勇者であったエロ勇者一行が魔王をこの山の山頂で魔王を倒したという話だ。」
「魔王?そんなものが本当にいたんですか?」
「どうだろうな。だが、この島の名前がエロ本島であるというのが一番の根拠だ。この海域の島のエロという名が付くところは、彼らが冒険をしてきた島々らしい。」
「そうですか。それで、この話のどこが宝と関係あるんですか?」
もう、我慢ができない。単刀直入に聞いてしまう。そもそも、この神父の話は遠まわしな部分が多すぎる。
「関係あるのは2つ目の話だ。倒された魔王は自分の存在をこの世に残すべく、自分の妻と自分の写真などを本に収め、陰歩山に遺したそうだ。」
「本ですか?確かに書いてある文章や写真を見ることが出来れば歴史的価値はありそうですね……」
「いや、文章の方には大した価値がない。真価は写真の方にあると私は踏んでいる。」
ふむ。歴史的な価値がありそうなものには、書いてあるものが一番価値があると思ったんだが、案外違うのか?
「その本っていうのはどういうものなんですか?呪いの本とか、そういう曰くつきのものなんですか?」
「呪いの本ではない。ただのエロ本だ。」
「は?エロ本?」
そんな馬鹿な。たかがエロ本にそこまで価値があるのか?
「価値があるかは知らん。だがロマンがあるだろう?今あり溢れているものよりも、まだ見ていない、古い物の方が良いと思わないか?」
「……つまり、一発抜いてから本を売ればプラスしかないという考えですか?」
「ほう、よく理解しているな。」
はぁ……つまり俺はエロ親父のエロ本回収に付き合わされてるってことか・・・・・・
「ロマンって言いますけど、そんな古いものに今の人間は価値を示しますか?」
「示さないとは言い切れない。私から見た異世界の話だが、たまたま50円で買った写真が、後に偉人であると判明して、それが6億円になったという珍事があったぞ。」
神父から見た異世界・・・・・・もしかしたら俺がいた世界の事か?もし見れたら、何かしらヒントを得れるかもしれない。
「へえーそんなことがあったんすか。今度見せてくださいよ。」
「・・・・・・ああ、気が向いたらな……」
写真の件も気になるがとりあえず本題に戻ろう。
「で、そのエロ本は売るとどんぐらい価値あるんすか?」
「5000万は超えるだろうな。」
「5000万ってどんぐらいすか?俺がさっき見たこんにゃくは1個100円でしたけど。」
「・・・・・・5000万あれば、上手くいけば金を見せるだけでこんにゃくが買えるだろうな。」
「・・・・・・マジっすか?」
万と億。どちらが高いか知らないが百や千よりは恐らく高いだろう。
「本当だ。そうだな、本を回収できればその暁にこんにゃく1個買ってやろう。」
なんということだ。本を回収するだけでこんにゃく1個。こんなにコスパのいい仕事もない。
「本の回収、任せてください。全力でやりますよ。」
「頼もしいな。さて、例の場所に着くぞ。」
こんな話をしていたら、いつの間にか山頂付近に差し掛かっていた。
「なんか禍々しい雰囲気ですね。」
「例えるならば、裏路地にあるバーだな。普通のバーか、オカマバーか、初見で見抜くのは難しい。」
神父が訳の分からないことを言っているが、気にせず歩を進めていく。
「おい、この先には門番がいる。門の先に我々が求めているものがある。準備はいいか?」
そう言われ身構える。魔王の残したものを守る門番。そんな奴が弱いわけがない。だが、逃げるという選択肢も残されてはいない。
「覚悟はできてます。絶対勝ちますよ。」
「いい心意気だ。これをやろう。」
「これは……?」
「濃縮赤マムシZだ。ラベルにも書いてあるだろう。さっき部屋に戻った時に錬成したものだ。錬成魔術にはそれなりの覚えがあってね。効き目はそう悪くないはずだ。」
『赤マムシ』栄養ドリンクのは一回チラットの部屋で盗み飲んだことがある。その時だけでも、かなりの効果が俺にはあった。
「ありがとうございます。それでは・・・・・・行ってきます。」
「神の加護があらんことを」
神父の神父らしいところを初めて見た気がする。言われてみると案外悪い気がしない。
「マジかよ……」
神父と別れ先に進むと、門があり、その前に門番が立っていた。問題は、その門番に顔がないということだった。
「(デュラハンか?いや、決めつけるのは早計か)」
慎重に近づく。俺の武器の性質上、距離が離れている方が都合がいい。だが、話をしないことにはどうしようもない。
「お前が門番か?」
「……その通りだ。」
どこで喋ってるんだ?と聞きそうになったが胸の中に抑えておく。
「そうか。なら死んでもらおうか。」
言うが早いか、抜くが早いか。見えない速度で「ピースメーカー」に力を溜める。マムシZを飲んだことにより、いつもより早く、そして速く撃てる。
「早撃ち・・・・・・!」
その間1秒。狙いを心臓に定め、擦りはじめ、「弾丸」を撃つ。
「どうやら俺の勝ちのようだな。」
確信できる。俺の銃弾は確実に奴の心臓を打ち抜いて――
「……悪くない。いい速さだ。」
「な・・・・・・!」
ありえない。普通の人間であれば確実に殺せるはずだ・・・・・・!普通の人間であれば絶対・・・・・・!
「え?」
普通の人間?どういうことだ?俺はこんなに物騒な能力を持っているが、この島に来てから人を殺したのは巨根のディックだけだ。なのに、なんで、殺せると確信できた・・・・・・・?
「いいや、違う!経験則だ!そう、思っただけだ・・・・・・」
「……何を焦っている。己の負けを悟ったか?」
相手の挑発に耳を傾ける。今は目の前の相手に集中しなくてはならない。
「お前こそ、俺に勝つ術がなくて策を練っているんじゃないか?」
「……安い挑発だな。だが乗ってやろう。」
奴はそう言い放つと、着ていたローブを脱ぎ捨てた。
「なんてことだ・・・・・・」
結論から言うと、奴は人間ではなく、人の形をした化け物だった。
「(体のどこかの部分が触手とかそんな生易しい物じゃない。体の何もかもが触手・・・・・・!)」
もはや、奴に人間のものと呼べる部分は一つしかなかった。いや、一つというのもしっかりとした表現ではない。何しろ、一つしかないものが三つもあるのだから。
「へぇ・・・・・・その三つある心臓は隠さなくていいのか?」
「・・・・・・貴様は我の心臓を一度潰している。今まで体を傷つけられる事があっても、この心臓を破壊されることは一度もなかった。その偉業を讃え、貴様に弱点を晒しているのだ。」
傲慢。つまり、こいつは俺に見せつけている。弱点を晒しても俺に勝てるという自信を。
「(心臓は三つ。奴の言いぐさからして、一度破壊しても復活する。ならば、同時に壊すしかないか。)」
息を整える。一歩動いたら、奴の触手は猛威を振るう。
「行くぞ・・・・・・!」
前進する。こいつに距離を取っても恐らく触手で防がれる。三つ同時に破壊する射程距離に入るには、近づくしかない。
「……」
奴は黙々と触手を振るう。四方八方から俺を貫きに来る。もはや、触手の数を数える暇もない。確実に劣勢。だが、そんな俺にも勝機はある。
「(マムシZ。いい飲み物だ。常に銃身を熱くしてくれている。一度射程距離に入れば、確実に倒せるだろう。だからこそ、この猛攻を潜り抜けなくては・・・・・・!)」
だが、そう簡単には上手くいかない。恐らくこいつは、俺の疲労を狙っている。疲れ切ったところを殺すつもりだ。
「(埒が明かない・・・・・・!勝負を仕掛けに行くしかないか・・・・・・!)」
俺は、俺を目掛けて突っ込んできた触手に飛び乗った。
「・・・・・・」
奴は全く焦っていない。まるで予定通りだと言わんばかりだ。それでも進まなくてはならない。早く勝負を決めなければ、俺の勝機が潰えてしまう。襲ってくる触手を避け続け、ようやく、奴の5m付近にまで距離を近づける。
「(出すなら・・・・・・今しかない・・・・・・!)」
「……勝負を急く人間ほど、理解できぬ人間もいない。」
「――何!?」
突如、俺の乗っていた触手が分散し、俺の体を掴んだ。
「ぐぉ・・・・・・!」
体が苦しい……意識が薄れる……
「……せめてもの情けだ。貴様の意識が無くなったとき、貴様の命も絶ってやろう。」
まずい……相棒も一緒に掴まれてしまったら撃てない。撃ったら2度と使い物にならない。
「おい……名前も知らない相手をよく簡単に殺そうと思えるな……」
「……名前か。そのようなものとっくの昔に捨てた。」
「へえ……そうなのか……」
俺にできる時間稼ぎはした。こいつの良心の呵責に期待したがどうやら無駄だったようだ。
「……そろそろか。よくぞ我を楽しませた。誇るがい――」
いきなり奴の触手の力が緩み、俺は地面に落とされた。
「(いったい何が……?)」
「いや、なに、岩で作るローション入門本というものを見ながらローションを作っていたら、どうやらこのローション、触手を溶かす効果があるとはな……こんなもの危なくて風俗で使えはしない。」
「神父……!」
「どうした?お膳立ては十分のはずだが?後は貴様の能力”銃”……だったか?それを使え。それで勝てないようなら我々にはもう勝ち目はないぞ?」
神父のおかげで触手の障害はなくなった。後は奴の心臓を撃ち抜くだけ……
「……0.5秒だ。」
「え?」
「……我の心臓の再生に要する時間だ。貴様にできるのか?私の心臓三つを一気に潰すこと――」
「悪いが……もう遅いんだよ……」
俺の早撃ちにはエフェクトを掛けなくてはいけない。だが、俺が今回かけたのは弾丸にじゃない。弾倉にエフェクトを掛けた。
「俺の早撃ちは、6発までなら0.1秒の速さで打てるんだ。欠点もある。6発一気に撃ったら、弾が溜まるまでもう撃てないんだ。」
聞こえているかは分からないが語っていく。奴が自分の心臓の全てを語ったように、俺も自分の銃の全てを語る。
「早撃ちの応用。スリリングショットだ。冥土のオカズに持ってきな……」
……返事はない。恐らくもういない。この世界に来て俺に初めて死を意識させてくれた奴はその役割を果たした。
「ほう。なかなかの能力だな。初めて見る能力だ。」
物珍しそうに神父が呟く。
「……結構珍しいのか?この能力。」
「ああ。私の見聞上、何かを放つ能力は見たことがない。」
「そうなのか……ていうかありがとな。助けてくれて……」
「例には及ぶまい。私は門番の能力を知っていた。あの触手には誰も敵わないと思っていたからな。囮が務まり、奴を殺せるのは君だけだと考えていた。」
「……あんた、意外と性格悪いな。」
「効率的な人間と言ってもらおう。それより早く行くぞ。」
そう言うと、神父は門をくぐった。
「(俺も行くか……)」
門の先には狭い部屋があった。殺風景で真ん中に本があるだけだった。
「ほう。これが例の本か。まさか本当にあったとは。」
今、聞いてはいけないことを聞いた気がした。
「なあ、もしかして本が本当にあるのかも分からなかったのか?」
「そうだが?途中で言っただろう?伝説だと。」
……まあいいか。俺の仕事は登山に付き合うだけだったしな。
「では、帰ろうか。私にはすっぽんが待っているからな。早めに帰るとしよう。」
「……それもそうだな。」
「そういえば、すっぽんはアパートの住人分の6匹だったそうだぞ。」
「知ってるぞ?挿れるとき数はしっかり確認したからな。」
「なら、いいだろう。」
「?」
この神父が何を言いたいのか分からない。とりあえず仕事も終わったし、さっさと帰ろう。
「この森まで来れば、道はわかるな?」
「え?まあ分かるけど、何でだ?」
森まで来たと思ったら急に神父が変なことを口走った。
「今の時刻は19時25分だ。走ればまだ間に合うだろう。」
「だったら俺も走るさ。別に別々に帰ることはないだろ。」
「いや、君はあの戦いで疲れてるだろう。幸いこの森には、疲労回復の効果がある。ゆっくり来て英気を養うといい。」
神父の言うとおりだ。かなり疲労が溜まってる。考えてみれば、弾を全弾使ったのは初めてだ。そのせいで疲労が溜まるのも無理はない。
「分かった。じゃあゆっくり帰るよ。チラットには適当に何か言っといてくれ。」
「ああ。責任をもって伝えておこう。」
会話を終えると、神父は森を走っていった。
「――なかなかの年とかいう割には結構体力あるじゃねーかよ……」
そんなことを呟きながらやっとアパートに帰ってきた。
「(もう飯は終わってるか?)」
「あら?遅かったわねー」
「あ、ママミさん。すみません神父と少し掘りに行ってました。」
「掘っ堀りに……!?」
「なんだよ?堀りに行ったっていうけど宝だぞ?」
嘘は言っていない。内容物はともかく価値だけは本物の宝だ。
「宝って何?///」
「いや……それだけは言えない。」
バレたら殺されそうだ。命を賭してエロ本を取りに行ったなど馬鹿過ぎる。
「な、なんでさ!僕に教えてくれてもいいじゃん!」
「どうしたんだ?そんなに聞きたがって?そんな聞きたいんだったら神父に聞けばいいだろ。とにかく、俺の口からは言いたくない。」
言いたくない。エロ本を取るために恐らくこの島の禁忌に触れたということを。
「そんなことより、すっぽんはもう食ったのか?」
「すっぽん///」
……本当にどうしてしまったんだ。
「えっと……もう食べましたよ?ほかの方は部屋に戻っちゃいました。」
「あっ、そうだったんですか。ところでなんで疑問形なんですか?」
「えっ?だって、神父さんが宝探しに行く前にすっぽん一匹を、江口君の分って言って持って行ったんですよ?」
待ってくれ。そんな話は初耳だ。
「……神父はどこですか?」
「私ならここだが?」
今、とてつもなく殴りたい人間の声がした。
「……説明してもらえるか?すっぽんの所在とお前の謎の行動を。」
「簡単に言うと、『口は禍の元』と言うことだ。」
「は?」
「いや、なに、君が私に言った事をそのまま管理人様に伝えたまでだ。そうしたら、顔を赤くしながら快くすっぽんをくれたよ。」
「待て。お前に失礼なことを言ったかも知れないが、あまりにもその仕打ちは酷じゃないか?」
「そうでも無いと思うぞ?そのおかげで貴様はあのドリンクを飲めたのだからな。」
ドリンク……マムシZの事か?でも、何の関係があるんだ?
「私は神経質でね。魔術で作った液体を売り物の瓶にいれるのは、中古っぽくてあまり好みではないのだよ。だから私はいつも瓶から作ることにしてるのだよ。」
もしかして、こいつ……!
「お前が俺に飲ませたのが既製品じゃないとしたら……俺に飲ませたのはすっぽんだったってことか!?」
「察しがいいな。お前のそういうところ嫌いじゃないぞ。」
「やめて―!僕の前でいかがわしい恋を見せないで!!」
「えっとぉ、チラットさんの事、部屋に連れていきますね。」
ママミさんに引っ張られながら、チラットは部屋に連行されていった。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「お前が走って帰ってきた理由は、残っているすっぽん鍋を食うためか!?」
「その通りだ。納得したか?」
「ああ……納得したよ。」
何もかもこいつに踊らさせられた。俺に帰ってくるのは何もない――
「ではな、少年!エロ本を売ったあと、私はサキュバスソープで一時の淫夢を見てくるとしよう!そしてその帰りには君の夕食のこんにゃくを買って来ることを約束しよう!」
ここ一番のテンションで語りながら、神父は城下町に歩いて行った。
「はぁ……疲れて何も言えねえ。」
とりあえず、休みながらチラットに何て説明すれば俺がゲイではないかを証明できるか考えるか……
「あぁ、そうだ……」
神父の発言に一つ突っ込みどころを見つけてしまった。
「あのこんにゃくにはオカズがないと意味ないだろ……」