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第一話「ピースメーカー:早撃ち」

「晴天。本日もエロ本島に異常なし。」

 このエロ本島は基本的に平和だ。本島以外の島には行ったことないが、どうやらそちらの方は荒れに荒れているらしい。だからこそ俺はこのアパートで用心棒をしているわけだが。

「やあ。今日も精が出るね。用心棒としてしっかり働いてくれて嬉しいよ。」

「よお、チラット。相変わらず冴えない顔だな。」

 彼はポロリ・チラット。このアパートの管理人だ。俺を拾ってくれたいいやつ。だとは思うが、どうも気に食わない。だが、拾って貰ったことは確かだ。しばらくはここにいてやろうと思う。

「考え事かい?悩みがあるなら相談に乗るよ?」

「まあな、今日は“銃”の調子が悪くてな。試し撃ちでもしようか考えていたところだ。」

 “銃”これは俺の「能力」の通称だ。

「ふーん。でもあんま使う機会無いんだしいいんじゃないかい?」

「一応、用心棒だからな。常に万全の状態の方がいいだろ?」

 こいつのこういうところが苦手だ。俺を用心棒として雇った癖にはあまり用心棒としては使いたがらない。普段は夕飯の買い出しに行かされるなど散々な扱いだ。きっと、こいつは俺のことを召使いか何かだと思っている。

「それに、もしかしたら自分のことが思い出せるかもしれない。そう考えたら撃たずにはいられないさ。」

「なるほどねえ。でもさ、万全の状態とは言うけど能力使うと体力減るじゃん?だったら万全の状態とは言えないんじゃない?」

「相変わらず口だけは達者だな。きっと下の口も饒舌なんだろうな。」

「君はもう少し年上への敬意というものを学んだ方がいいと思うよ……」

 いつもこうやって口喧嘩をして部屋に帰って戻る。毎日その繰り返しだった。

 今日までは。

「よお、あんたがこのアパートの管理人かい?」

 誰だ、こいつは?見た目は巨大。身長は恐らく190cm以上はある。体重は多分130㎏ぐらいか?いや、今はそんなことを気にしている場合じゃないか。

「俺は管理人じゃない。このアパートの用心棒だ。」

「そもそもお前に聞いてねえ!早漏野郎!」

 こいつは口の利き方がなっていないが、どうやら人の見る目はありそうだ。

「おい。まずは用心棒を倒してから管理人に話を通すのが筋だろ。」

「何?そんな決まりがあるのか?」

「ああ、このアパートのルールだ。」

 無論そんなものはない。相手が馬鹿で助かった。

「ふむ……ルールなら仕方ない!従おう!」

 相手が馬鹿で助かった。

「理解が早くて助かる。ではヤりあおうか。」

「待て!敵の名を知らないで戦いは出来ないぞ!名を名乗れ!」

「名前を知らなくても戦えるはずだが?それでも俺に名乗らせたいならお前から名乗れ。」

「名前を知らなければ戦いの最中お前を何て呼べばいいかわからないだろ!間抜けが!」

「なるほど、理解した。」

 要するにコイツは……俺の名前を呼ぶほど長く戦うつもりでいたのか。やはりバカだな。

「ほう!理解したか!では名乗ろう!俺の名前はディック・マラ!巨根のディックで名が通ってる!」

「巨根のディック……!聞いたことがある!あいつは自分の男根で敵の体を貫くほどの硬さを男根にまとわせているらしいんだ!江口君!この勝負引いた方が……」

「いや大丈夫だ。」

「え?」

 そう大丈夫だ。なぜなら俺は……

「名乗らせてもらおう。俺の名前は江口誠志。通り名は無い。そしてお前は……もう負けている!」

「何!?」

 その瞬間に俺の弾は奴の眉間を貫いていた

「グォ……何故……見えな……かった……」

「そう悔やむことはないさ。俺と対面したときにお前の負けは決まってた。俺の能力でな。」

 俺の能力は男根から発射される子種を筒状にして発射するというものだ。今回は確実に勝つために速さにエフェクトをかけ、一つの弾に速さを一転集中させた。その結果、奴は自分がどういう風に殺されたのか理解できていないのだ。

「俺の能力はピースメーカーだ。加えたエフェクトは速度。簡単に言うと早撃ちというやつだ。冥土のオカズに持ってけ。」

 もっとも、この声はもう聞こえてないだろうがな。

「凄い……凄いよ!江口君!」

 興奮したチラットが寄ってくる。俺の能力を直で見るのは初めてだからこんなに興奮してるのか。それとも初めて俺の下の「ピースメーカー」を見て興奮しているのかは定かではない。だが、こうして喜んでもらえると案外悪い気はしない。

「フッ。凄いだろ?これが俺の万全の状態というやつだ。そこらの雑魚には負けないさ。」

「うんうん!凄い説得力あるよ!今日は奮発してすっぽん鍋だね!きっともっと精がつくよ!」

 流石にここまで喜ばれると俺の相棒もいつもより元気な感じがする。実際、エロ本島に来てからの実践は初めてだ。相手が弱いといっても嬉しくないといえば嘘になる。

「じゃあ、買い出し付き合って!荷物いっぱいになると思うしさ!」

「おい。死体はどうする。放置というわけにもいかないだろ。」

「じゃあアパートの誰かに頼んどくよ。神父のあの人に任せれば大丈夫でしょ。」

 神父というだけで、死体の処理をさせられるのはなんか不憫な気もするが……その手のプロなら良いのか?まあ、ちゃんとした人がやるなら巨根のディックも報われるだろう。

「そういえば気になったんだが、お前死体は大丈夫なのか?全く驚いていなかったが。」

「うん。だって見慣れてるし。」

「は?」

「いいから早く行こうよ!どうしてこういうときだけ遅漏なの?早漏君!」

 ……まあいいか。それ以上に今すぐこいつを殴りたい。

「おい!能力とか言って誤魔化してるが案外コンプレックスなんだぞ!」

「ちょっと!本気で怒らないでよ怖いから!」

 今日は口喧嘩より少し発展した感じがする。いつもの日常と少し違うがたまにはこんなのもいいだろう。

 だが俺は知らなかった。巨根のディックを倒したことによって俺の日常が狂うということを。


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