パート8
男は独身らしく、家には1人だった。iPadやらパソコンやら、たくさんある。
盗んでやろうかとも思ったけど、あたしには使えないので、意味ないと思った。
机に座って、iPhoneを操作し、ラインを立ち上げる。やっぱり知らない連中ばかりである。変なメッセージばかり交換しているらしく、中身が全くわからない。
中でも「ミク」とか言う子は怖い。なんだかものすごいテキスト量を送って来ている。この男が地雷でも踏んだのだろか。
とにかく、誰かと連絡を取らないと。マルコシアス、通称マー君が良いかも。舎弟だし、子分だし、あたしのことが好きみたいだし。しかし電話番号が思いつかない。ラインIDも。今時はみんな電子化されているで、憶えるってことはほとんどしないのだ。
この家に手がかりはあるわけがない。
とにかく、高崎に行かなければ。ここはいったいどこなのだろう。
グーグルマップを立ち上げる。
夢見ヶ崎動物公園、どこよそれ。検索すると、神奈川県の川崎市である。
高崎までは…。104キロ!
絶望した。
絶望したってのは何になんだろう。まだどこかで演奏会に間に合うと思っていたのだろうか。
「あたしも甘いなぁ〜」
って男の声で言うと、なんだか変だった。