パート6
着いてしまった、会場。
これからどうすれば良いのだろうか。オシリなんたらとか言う曲は、全くわからないし、テューバなんて吹いたことないのだ。
「なんだかおかしいですよ、先輩、いつもと違うと言うか…」
その通りである、中身は48歳の男なのだ。しかしかわいいもんだね、高校一年なんて、歩いてる最中、ずっと顔真っ赤にして、沙知のが好きなのバレバレである。たまに寄って来たりして、羨ましい限りである。
「青春だなぁ、少年」
「もう、少年じゃありません!」
「そりゃ、夜な夜なオナニーとかするもんな」
「しません、さちのさんじゃあるまいし!」
「失礼な!、昨日はしてない…と思うぞ」
控え室に着くと、なんだか色々寄ってきた。後輩たちが。人気者なんだな、さちの。
「今まで何やってたんですか、先輩!」
「チッ、来やがった、どのツラ下げて」
「ほら、あんたのパート、空けといたよ」
「…ッ」
なんか違う…。人気者と違う…。ギスギスする。
テューバ。本物は初めて触った。でかい。なんだか男根主義的な、象徴的な…。
見よう見まねでマウスピースをはめてみる。そして吹く。
「ブォーーーーン」
音でかって、吹けるのか?俺吹けるのか?なぜだかわからない。するとわからないが頭の中に楽譜が急に展開した。パソコンのZIPフォルダを展開したみたいに、急に中身がわかる。
これがいわゆる、能力と言うやつか。沙知のには、能力があるのだ。軽く吹いてみる。
「フッフォフォッホホー、フッフォフォッホ〜」
マー君驚く。
羨望の眼差しである。
出音が他の連中の倍はあるのがわかる。
「すごい、まるで今まで何百時間も練習していたみたいだ」
そうか、これが天才ってやつなんだな。俺超天才。曲も何とかなる。
「でも先輩、今日は’オシリ’じゃないですよ?’忘却’の方です」
何忘却って?完全に忘却してるんだけど。